61話 ショデヒとモナルッポの密談。
61話 ショデヒとモナルッポの密談。
「……モナ様」
ふいに、背後から声をかけられて、モナルッポは、意識を背後に向ける。
そこにいたのは、一人の超絶優秀な忍。
ミルス王国が誇る最高峰の暗部エリート。
「聖龍王国のショデヒが、秘密裏の面会を求めておりますが、いかがしますか?」
「……ショデヒとは、先週会ったばかりだが? いったい、なんの用だ?」
「会ってから話したい、と」
「……ふむ」
これまで、ショデヒは、『王であるエルメス』には内緒の『裏外交』で暗躍していた。
『エルメスを説得し、立ち上がらせること』をベースに、
『エルメスが立ち上がった時のための下準備』を着々と進めていた。
各国の『ショデヒ的に使えそうな要人』とひそかにコンタクトを取り、
時には、聖龍王国の資源や金や女を贈り、時には暗殺や諜報を請けおったり、時には、モンスターをけしかけて暴動を起こしたり、
そういった裏工作を進めて、諸外国との裏の交流を深めていた。
「――お久しぶりでございます、殿下」
キッツに案内されて現れたショデヒは、
モナルッポの前で片膝をついて、丁寧に頭を下げた。
そんなショデヒに、
「久しぶりと言えるほど間があったわけではないと思うがな。で、何の用だ? また女を売りにきたのか? 前の者はそれなりによかったから、値段しだいでは、また買ってやってもいいぞ」
『内』にも『外』にもバカ王子の顔を見せているモナルッポ。
『雑な色』を好み、怠惰で、ヘタレで、愚鈍で、脳が足りない真正の無能。
モナルッポは、これまでずっと、そのキャラクターを徹底してきた。
だからこそ、こうして、ショデヒのようなカモを釣ることも出来た。
『バカ王子』をカモにしようとするハンターは、ショデヒだけじゃない。
ほかにも、無数の詐欺師連中が、『バカ王子』を利用しようと近づいてきた。
その全てを、モナルッポは、カモにしてきた。
『獲物を狩ろうと集中して視野が狭くなっているハンター気取りの獲物』は、最も狩りやすいカモ。
「今回は、女ではなく、魔カードを売りにきました」
「魔カード? いやいや、ショデヒよ。俺は王族だぞ? 確かに、王族の中では弱い方だが、普通に魔法は使えるし、生活系の魔カードは、城内の倉庫に腐るほどある。わざわざ、お前から買う必要性は皆無だ」
「もちろん、ただの魔カードではありません。我が聖龍王国で開発された『画期的な新技術』を結集した、特別な魔カードです」
「特別ねぇ……ちなみに、どんな?」
「こちらでございます」
そう言いながら、ショデヒは、一枚の魔カードを取り出して、
モナルッポに差し出した。
受け取ったモナルッポは、その魔カードの性能を目の当たりにすると同時、目をひん剥いて驚愕する。
(っっ?! なっ……ら、ランク20の魔カード……だと……バカな……)
モナルッポは、つい、反射的にひんむいてしまった目を強引に戻して、
『冷静さ』を自身に強制させる。
そして、鍛え上げてきた『愚かさ』を前面に押し出しながら、
「こちらですって言われても、俺、魔カードには詳しくねぇからなぁ……なあ、キッツ、この魔カードって、何か特別なのか?」