60話 無駄な足踏みをやめて、全員で前に進むことを決断すれば、時代を早送りすることが、きっと出来る。
60話 無駄な足踏みをやめて、全員で前に進むことを決断すれば、時代を早送りすることが、きっと出来る。
長い目で見た時、戦争というのは、あまりにも非生産的すぎる。
短絡的な視点で、短期的な結果だけに注視すれば、
戦争で急成長を果たせる分野もあるだろう。
それは否定しないが、しかし、長期的な視点で言えば、
戦争は、やはり、非生産的な愚行と言わざるをえない。
これは、戦争が良いか悪いかとか、そんな問題ではない。
最終的・結果的に、効率的か非効率的かという数学的な命題。
――仮に『世界を数世代ほど先の時代へと加速できる天才』がいたとしよう。
安易な戦争は、そんな天才の命をも容赦なく奪う。
その天才が研究室に隔離されていればいいが、才能が開花する前に徴兵されてしまえば、可能性はついえる。
『命の可能性』を無碍にする『死の量産態勢』は、
俯瞰でみた総合評価だと、明らかにマイナスである。
(不毛な南北の戦争を終わらせて、生命を統一化させる。そして、俺は、その頂点に立つ。現存する生命の全てが力を結集させれば、飢餓や疫病などの問題を解決し、すべての産業を劇的に発展させることも不可能ではない)
――モナルッポは思う。
命は、もっと先へ進めたはずなのだ、と。
『敵対国との戦争や内ゲバ権力闘争』などの『足の引っ張り合い』さえなければ、
人も魔人も、もっと、もっと、未来へと進んでいたはずだ。
無駄な足踏みをやめて、全員で前に進むことを決断すれば、
時代を早送りすることが、きっと出来る。
(――『生命の倫理的完成』を果たす、ソレだけの偉業を陣頭指揮する立場になること。そうすれば、俺は、すべての生命から喝采されるだろう。終わりのない賛美に包まれて、モナルッポ・スピアーズ・ミルトリスは神格化する)
ゴチャゴチャと、色々言ってきたが、
結局のところ、帰結点はそこである。
言葉にするとアホくさいが、
しかし、『極めて人間らしい本音』と言えよう。
――簡単に言えば、モナルッポは『世界で一番褒められたい』のだ。
ムチャクチャ『深層の本音』を言えば、
モナルッポは、『弱者救済や平和実現』を『最重要』とは捉えていない。
『どうでもいい』というワケではないが『中心』ではない。
自分の頭が描く『理想の未来』を実現させて、
その結果として、称賛と言う名の報酬を得ること。
――それが、モナルッポの望み。
狂おしいほどにまたたくモナルッポの欲望。
「……モナ様」
ふいに、背後から声をかけられて、
モナルッポは、意識を背後に向ける。
そこにいたのは、一人の超絶優秀な忍。
ミルス王国が誇る最高峰の暗部エリート。
彼女――『キッツ』は、モナルッポの本性を知っている数少ない存在。
一応、表向きには『王族全体についている忍衆の頭目』――ということになっている。
しかし、その忠誠心は、完全にモナルッポただ一人に向いている。
キッツは知っている。
モナルッポが、ドーキガンやゾメガに匹敵する天才であると。
そして信じている。
『王としての資質』だけで言えば、ドーキガンやゾメガよりも、モナルッポの方が間違いなく上である、と。