59話 ドーキガン・ザナルキアは、ただの変態。
59話 ドーキガン・ザナルキアは、ただの変態。
『支配者には、君がなればいい……と、ボクは考えています。あなたにはそれだけの資質がありますから』
『……は、はは。何を言っているんだ。俺は、優秀な兄の出がらしにすぎないというのに』
『フェイクオーラに自信があるようですが、ボクのセブンスアイをごまかせるレベルではありませんね』
『……』
『ボクには、邪神を滅ぼすという、重要な仕事があります。世界の統治をしているヒマはありません』
『破滅の予言か……ドーキガン・ザナルキア……君は、あんなものを信じているのかい?』
『予言が事実か否かはどうでもいいんですよ。もし、事実だった場合、邪神に対抗できるだけの力がなければ、世界は滅びる。それは許容できない。それだけの話です』
『……なるほど。じゃあ、邪神を殺した後に王位を狙う感じかな?』
『別に、邪神に限らなくとも、世界のあちこちでモンスターが壊れて暴れることが多々あります。そういう厄介事を的確に対処できるエキスパートはいた方がいいでしょう。……ボクの仕事はそれです。絶望を裂く一振りの剣。それだけでいい。というより、専業でなければ務まらない。片手間でこなせるほど、王の仕事も、剣の仕事も、ヌルくはありません』
『ご立派な思想だが、しかし、君はそれで、何を得るんだ? 君は何が欲しくて、絶望を狩ろうとしている? 何が君の原動力だ? 王になることが望みではないというのであれば、君はなんのために戦っている?』
『輝く明日のため』
――ドーキガン・ザナルキアと会談した時のことを思い出すたび、
モナルッポは、鼻で笑ってしまう。
(あいつは変態だ。警戒する価値のない相手)
モナルッポは思う。
あんな変態に気を取られるなどバカバカしい、と。
(あいつは、『俺でも対処できない化け物』が現れた時のための保険。それ以上でも、それ以下でもない。せいぜい、便利に使わせてもらうさ)
ドーキガンと出会うまでのモナルッポは、
漠然と『トップを目指す』という欲にかられていた。
本能の叫びに従って、
この世の全てを貪り喰らう獣になろうと思っていた。
しかし、ドーキガンと出会って、モナルッポは、本能との向き合い方を知った。
本人は決して認めないが、
ようするには、焦がれたのだ。
ドーキガン・ザナルキアの眩しさを前にして、安い本能が封殺された。
『自分が本当に欲しいものは何か』と、真剣に『自分の欲望と向き合った時間』は、モナルッポの中で、かけがえのない宝物になった。
それなりに長い時間をかけて、モナルッポは、自分なりの答えを得た。
モナルッポが欲しかったものは、
(……完全なる王に、俺はなりたいのだ……)
結局のところ、変わらなかった。
自分の中に、深く、深く、深く、深く、潜ってみた結果、
モナルッポは、『自分の渇き』が『原点』にあることを理解した。
現状における世界情勢の不安定さはひどく醜い。
人間も魔人も倫理的に不完全すぎる。
――モナルッポは思う。
(……とりあえず、当面の目標は、統一化による戦争の終焉……)
長い目で見た時、戦争というのは、あまりにも非生産的すぎる。
短絡的な視点で、短期的な結果だけに注視すれば、
戦争で急成長を果たせる分野もあるだろう。
それは否定しないが、しかし、長期的な視点で言えば、
戦争は、やはり、非生産的な愚行と言わざるをえない。