49話 なんだ、夢オチか。あー、よかった、よかった。
49話 なんだ、夢オチか。あー、よかった、よかった。
「すべてが夢か! そうだ! はは! なんだ、びっくりした! ……む、しかし、そうなると、私は、まだ超神になれていないということか……くっ……それだけは残念だが、しかし、夢から覚めたあと、また努力を積んで、いつか本当に超神へと届けばいい。そうだ! それだけの話だ!」
こうして、バーチャは、現実から逃げ出す。
『努力に対する根性』の方は、それなりに高スペックなのだが、
『絶望に対する勇気』の方は、経験値が少ないため低スペック。
「そろそろ目覚めろ。もう、いい加減、長すぎる。いったい、どれだけ長く寝ているのだ、私は。まったく。はやく、起きて、鍛錬を開始しろ」
などとぶつぶつ、自分に言い聞かせながら、
頭を振ったり、目を強く閉じたり、開けたり……
そんな、極上の『滑稽さ』を振りまいている彼に、
Tは、たんたんと、『自分の言いたいこと』だけを続ける。
「――『才能があるやつ』の中でも、『かなり上位』におることは間違いない。けど、『ガチムチ天才』の中に混ざると、かすんでしまう程度の、ハンパな秀才。それが、お前や、バーチャ・ルカーノ・ロッキィ」
だいぶ腹の立つことを言われているが、
しかし、バーチャは、すでに、現状を『夢だ』と断定してしまっているため、
もはや、Tの発言に対して、何かしらの感情を見せることはない。
「夢は願望と妄想の鏡……私の願望は……超神になること……それはいいのだが……なぜ、私は、センエースの夢をみた? まさか、私が、敗北を望んでいるとでも? いや、ありえない。私は勝利以外を忌避している。敗北など、なんの糧にもならない。なぜならば、敗北によって得られるものは、勝利によって得られるものよりも少ないから」
持論を展開していくバーチャ。
そうやって、自分自身を慰めていく。
――そうやって、『バーチャ・ルカーノ・ロッキィを許容してくれない世界』を拒絶していく。
「まさか、予知夢? 悪夢の予知夢とは……おだやかじゃない。もしかしたら、将来的に、センエースという名の神が台頭してくるのやもしれん……それは、ダメだ……許容できない……いまのうちに、鍛錬を積み、センエースをたやすく排斥できるようにしておかなければ。うむ。となれば、やはり、いつまでも寝ているわけにはいかない。私よ……いい加減、おきろ」
と、自分自身に命令していく。
――その滑稽な様を見て、
先ほどまで、彼に心酔していたショデヒは、
青い顔をして、
(な、なんだ……この脆い生き物は……)
と、普通に呆れていた。
ショデヒは、『強者』しか許容しない。
『ショデヒが愛する強者』の『定義』は複数あるが、
『メンタルの強さ』も、当然、定義の中には入ってきている。
その点で言えば、バーチャは、
(……ただ力を振りかざしていただけのガキ……自分より強者が現れれば、みっともなくおろおろするだけの弱者……こんなものは、神ではない……神を名乗る資格がない……)
ショデヒは、他者を無条件で愛するということがない。
『利用できるか否か』と『不愉快かそうでないか』。
基本的には、この二つの基準でしか他者を見ない。