45話 Tの領域。
45話 Tの領域。
「これから殺します。無駄な抵抗をしなければ、一撃で首を落としてあげますよ」
「見てわからない? 抵抗する気力なんて残っていない」
「それはけっこう。それでは、さようなら」
そう言いながら、召喚した魔剣を振り下ろす。
その結果、
「――ぐぅうううっ!!」
右腕を切り飛ばされて、うめき声をあげるザラキエリ。
そんな彼女に、ショデヒは、
「あーっと、申し訳ないっ! 首を狙ったのですが、あやまって、腕を切ってしまいました。本当にもうしわけない」
「……っ……」
「私は、剣が苦手でしてね。次は間違えませんので、ご安心を」
そう言いながら、再度、魔剣を振り上げる。
そして、迷いなく上段斬り。
「っ……うぅうううっ!!」
今度は、彼女の左腕を切り落としたショデヒ。
「ショデヒ……あんたねぇ……」
『激痛をともなう怒り』を目にともしたザラキエリ。
彼女に睨まれたショデヒは、
「まあまあ、落ち着いてくださいよ。ちょっとした戯れじゃないですか。くく」
小バカにしたように笑ってから、
「あなたには、さんざんイライラさせられてきましたからね。このぐらいのいやがらせぐらいは、笑って許してくださいよ、ふふ、くく……ははは」
楽しそうに、嬉しそうに、笑顔を並べてから、
「じゃあ、そろそろ、本当に殺しますね。いままで、ゴミみたいな人生、おつかれさまでした、と」
そう言い捨ててから、剣を振り上げた。
その時、
「――あ、二体蘇生させるんはめんどいから、ザラキエリを殺すんはやめてくれる?」
謎の声が、玉座の間に響き渡った。
ショデヒ、目だけで、声の主を追う。
配下たちが並ぶ列の後方に、
『そいつ』は立っていた。
「……誰ですか、あなたは。……人間……だとは思いますが……どこの国の方ですか?」
「神の領域」
「……えっと……フーマーということでしょうか?」
『精霊国フーマー』は、北大陸に存在する国の一つで、
『精霊神ホルスの教え』という『神の啓示』を信じる一神教の宗教国家。
「まあ、そうとらえてもらっても、別に困りはせんけどねぇ」
などと言いつつ、
『彼』は、ゆっくりと歩を進める。
無遠慮に近づいてくる彼にイラっとしたショデヒは、
「バナブッド、そこの彼は、どうやら死にたいようですので、殺してさしあげなさい」
と、自分の部下に殺害の命令をくだす。
中級悪魔種『ガーゴイル』の進化種であるバナブッドは、
血と殺戮を好む生粋の悪魔。
だから、上司の命令に喜んで従い、
『彼』を殺そうとした。
「今、取り込み中でなぁ。人間のガキを相手にしているヒマはねぇんだよ」
そう言いつつ、アイテムボックスから斧を取り出す。
バナブッドは、いっさいの容赦なく、
『彼』の頭を叩き割ろうと、
その『血に濡れた斧』を力いっぱい振り下ろした。
存在値300を超えるパワータイプのバナブッドに、力いっぱい斧をふるわれたら、そこらの一般人は、真っ二つになるほかない。
――なのだが、
「存在値300やと、こんな感じか……んー、300と400の違いは、ほとんどわからんなぁ……かんぺきに誤差やなぁ……ワシ、頭の方は、そこそこ自信あるけど、ソムリエ的な素養は、そこまで高ぁないねんなぁ……」