40話 山登りの最中に、頂上から見える景色の感想を聞かれても困るぜ。
40話 山登りの最中に、頂上から見える景色の感想を聞かれても困るぜ。
「……あんたに言いたいことなど、特にないわ。言ったところで意味などないし。ただ、一つ聞きたいのだけれど、この世に存在する命を奪い取って、あんたは何がしたい?」
「私は私を完成させたい。そのために出来ることはすべてやる」
ザラキエリの問いに、バーチャは、真摯な答えを並べて揃える。
「これまで、ずっとそうやってきた。誰よりも努力を積んできた。必死に命を磨いてきた。貴様らの頭で想像できる領域の十倍、百倍、数千倍、それ以上の『果て無き努力』を積み重ね、『狂気の閃光』という『異質な絶望』とも正面から向き合い、その結果、私は、『超神』という領域にたどりついた」
『積み重ねてきた努力』という『最大の誇り』を高らかに掲げて、
「だが、私は、まだ先を求める。超神の先! 神の最果て! 超神を超えた神に、私はなるのだ!」
「……質問の意図が理解できていないようね。私は、あなたに、その『よく分からない存在』になって、どうするのかと聞いているのよ」
「さらなる『その先』を目指す。『超神を超えた神』になれたら、『超神を超えた神』を超えた神を目指す」
「それを、えんえん繰り返した先に、あんたは何を求めるというの?」
「命の完成」
「だから、完成して、どうなるのって聞いているのよ」
「そんなものは完成しなければ分からない。山登りの最中に、頂上でみられる景色の感想を聞くようなもの。今はただ、のぼるだけ。そこに山があるから」
「なるほど……つまりは、特に意味もなく、命を奪おうとしているということか。下劣な外道が」
そう言いながら、
ザラキエリは剣を抜いた。
「命を奪う行為の全てを否定する気はないが……大義のない殺戮は、ただの悪。そんなものを見過ごすわけにはいかない」
「ひじょぉおおに、薄っぺらな感想だ 私の視点で言えば、貴様の発言に、なにかしらの大義があるようには、みじんも思えないのだが? 手前勝手というのであれば、貴様のエゴもたいがいだと思わないか?」
「バーチャ・ルカーノ・ロッキィ。あなたは無為な殺戮を選び、私は正当な幸福を選んでいる。どちらも手前勝手なエゴであるというのなら、それはそれとして受け入れるわ。けれど、どちらの方が、より多くの命にとって有意義であるかは論じるまでもないこと」
「ふん。脳足らずの功利主義者かが。薄っぺらさの極みだな」
また、鼻で笑ってから、
「数だけを見て質を顧みない。私の視点では、もっとも愚かな判断の一つと言わざるをえない」
「確かに、数だけを見るのは愚かでしょうね。けれど、質だけに着目して、数をないがしろにすること。それだって同じぐらい愚かな話では? 精一杯頭を使って『愚かではない道を選ぼうとし続ける』のが命の義務だと、私は考える。それをしようともしていない時点で、あんたの話に大義はないと断言できる」
「なかなか器用にまわる頭だ。屁理屈はお得意のもよう」
「それはそちらも同じでしょう」
「同じか。まあ、仮に、同じだったとしよう。それは、つまり、おたがいが、お互いにとって、ゆずれない意見を持っているということ。ならば、当然、戦争になるわけだが、その戦争に、貴様は勝てるか?」