31話 ショデヒは、領土拡大を望んでいる。
31話 ショデヒは、領土拡大を望んでいる。
「人の世界に興味などない。滅びようが、栄えようが……どうでもいい」
「滅びるのは大歓迎なのですが、栄えすぎるのは問題があるかと。人の数が増えれば、ドーキガン・ザナルキアのような厄介な種が芽生える可能性が増えるわけですから」
「あんな突然変異はめったに生まれない」
「おっしゃる通り。めったには産まれないでしょう。しかし、ぜったいにありえないとは言えない。第二、第三のドーキガン・ザナルキアが誕生し、結託されたりしたら、非常に厄介。今のところ、人間の世界で脅威と言えるのは、かの勇者一人だけ。一人だけであれば、我々が全軍で挑むことで、どうにか対処することが可能。危険な芽は、摘めるうちに摘んでおいた方がよろしいかと」
エルメスは、現状維持を望んでいて、
ショデヒは、戦争による世の混乱と、聖龍王国の領土拡大を望んでいる。
命の視点は人それぞれ。
『良い・悪い』や『正しい・間違っている』の話ではない。
これは、方向性の違いでしかない。
「ドーキガン・ザナルキアとは同盟を結んでいる。あれが敵にまわることはない」
「その楽観視は、いかがなものかと。人間は、時に、われわれ悪魔種よりも狡猾で残虐で外道な生き物。いつ、約束を無視して、牙をむいてくるか分かったものではありません。というわけで、どうでしょう。あの野蛮でゲスな虫けらどもを、踏みつぶしにまいりませんか? 陛下が立ち上がるというのであれば、このザバメット・ショデヒ、聖龍王軍の総大将として、命を賭して、人間どもと戦う覚悟でございます」
と、そこで、もう一人の側近『炎龍の進化種(飛竜型のラディエルノバーノイドとは違い、ほぼ人型の竜人スタイル)』である『ガイリュー・ガリアッティ』が、
「聖龍王軍の総大将は俺だ。お前じゃない」
と、ギラついた目で、ショデヒをにらみつける。
「栄えある聖龍王軍全軍の指揮を、あなたのような脳筋に任せられるワケないでしょう。はははははは」
「……殺すぞ、ショデヒ」
「ただ体がでかいだけのカスが、私を殺せるとでも? 私の体格は、あなたの半分ほどですが、魔力量は、ケタが違う。ポジションだけは、私もあなたも、聖龍王親衛隊で同じですが、存在としての格は、私の方がはるかに上なのですよ」
「調子にのるのも、いいかげんにしろよ、カスが」
そう言いながら、ガイリューは、全身に力を込めた。
元からデカい体が、さらに膨らみ、全身の体色が変化して、ドラゴン独特のトゲトゲしいウロコが逆立つ。
ガイリューは変身型の進化種。
変身した時のパワーは通常時の倍近い。
エルメスをのぞけば、ガイリューの膂力は、聖龍王軍の中で、間違いなく、ナンバーワン。
「ショデヒ。俺がその気になれば、貴様など、一瞬でひねり殺せる」
――今にもとびかかりそうな覇気を垂れ流しながら、
ガイリューは、ショデヒとの距離を一歩つめて、
「先の侮蔑を撤回しろ。さもなくば殺すぞ」