29話 全知全能という矛盾の向こう側。
29話 全知全能という矛盾の向こう側。
「……は、遥か太古から存在する謎の城だと聞いておりましたが……まさか、神の手によって建造されていたとは……」
「あ、そういえば、ジブン、名前は?」
「え? あ、はい、私は……ラディエルノバーノイドと申します」
「……長い……ラディって呼んでええ?」
「あ、はい、もちろん、お好きに……えっと……あの、主よ」
「ん?」
「失礼ですが、主は、その……全知全能というわけではないのですか? 少なくとも、私の名前はご存じではないご様子――」
おそるおそる、言葉を選びながら、そう言ったラディエルノバーノイドに、
Tは、サクっと、
「全知全能なんて、概念からして矛盾しとるからな。まあ、『矛盾のない全知全能』を実現できるだけの何者か――みたいな、マジもんの神が、どっかにおる可能性は否定せんけど」
と、軽い前を置いてから、
「とりあえず、ワシは、知らんことの方が多いで。『ワシがなんで存在するんか』『この世界がなぜ存在するんか』とか、そういう根本的なことからして、まったく知らんし」
「この世界が存在するのは、主が創造なされたからでは?」
「手順にしたがって創っただけや。世界を創るための力とツールが元からあった。それだけの話。そのツールがどうして存在するんか。そういうことは知らん。そういう視点でいえば、ワシはまったく神ではない。まあ、ここまでくると、『何をもって神とするか』という高次哲学上の話になってきて、かなりややこしいけど」
「……」
「最初にちゃんと言うとくけど、『ゾメガ』とか『平熱マン』とか『ミシャンド/ラ』ぐらい有名なやつやないと、基本、名前も顔も知らんからな。お前ら生命を創ったんは、確かにワシやけど、一人一人、丁寧に作ったわけやない。……でっかい畑で、大量のイモを作るみたいなイメージをもっとってくれたら間違いない。ワシは種をまいただけ。水をまいたり、害虫を駆除したりはしたけど、育った野菜の顔と名前なんか、いちいち把握しとらん」
「……な、なるほど……主からすれば、我々のような一生命体は、田畑の野菜と変わらないと……なるほど、なるほど……」
哲学者であれば垂涎モノの知識を会得したラディ。
世界の真理を知った彼の視界の隅で、Tが、
「あ、ちなみに、言うとくけど、お前らと違って、聖龍王は、名前も能力も外見も、ワシが一から設計したんやで」
「そ、そうなのですか?」
「うん。お前らモブは、『まいた種が実っただけ』やけど、聖龍王は、ワシが直々にデザインして、この世界に配置した。せやから、他の龍より強いんやで」
「……主の隣にいると、驚かされることばかりです……正直、もう、驚きすぎて、いろいろと麻痺しております」
★
――聖龍王エルメスは、荘厳な光が降り注ぐ玉座で、
『自分の命』について、考えていた。
なぜ、自分は存在するのか。
そして、そんな自分が生きているこの世界とは、何なのか。
こんな哲学的疑問を、定期的に、考えてしまうほど、
エルメスは、ヒマをもてあましていた。
やるべきことはあるのだが、
したいことは特にない。
ゆえに、ただ、毎日が、漠然と過ぎていく。