26話 私の存在値は53万です。
26話 私の存在値は53万です。
自分のことを『圧倒的強者である』と信じて疑わない親衛隊ドラゴンは、愚かな侵入者を完璧に氷漬けにしようとブレスを放った――が、その愚かな侵入者は、すずしげな貌で、にたにたと笑っているばかり。
――その侵入者は、
「まあ、存在値400のブレスやと、こんなもんやろうな」
鼻で笑ってから、
「ちなみに言うとくと、ワシの基礎存在値は53万や。おどれんとこの大将である聖龍王の、ザっと750倍ぐらい強いんが、このワシ――『T・104』や。よろしくのう」
「な……なにを、愚かしいことを――」
『氷に対する強い耐性を持っているのだろう』と判断したドラゴンは、
物理攻撃で攻めようと、両腕にオーラを込めた。
龍は、繁殖能力以外の『全て』において完璧な種族。
パワー、スピード、魔力、タフネス、知性、すべてにおいて最高クラス。
さらには、自身の力に酔うだけではなく。
『アイテムを有効活用する能力』も高スペック。
「――私は、自身に付与された魔カードの効果を高めるというスペシャルを保有している」
と、暴露のアリア・ギアスを積みつつ、
アイテムボックスから取り出した魔カードを破りながら、
「拳気ランク12」
宣言することで、龍の拳に、膨大な魔力とオーラが込められる。
徹底的に拳を高めてから、
龍は天高く飛翔した。
そして、突撃。
この飛翔からの突撃も、『アホの突貫』ではなく、計算された破格の一撃。
そんな龍の『とびっきりの一撃』を、Tは、ソっと、片手で受け止める。
「――っっっ???!!!!」
それは、もはや、蚊を受け止めるぐらいのユルさだった。
龍の突撃に対して、Tは、何も感じていない。
「感謝せぇよ。そっちの体が壊れんように、衝撃を吸収した上で、受け止めたったんやから」
呑気な口調で、そんなことを言うTに、
龍は、
「……っ……っ……ぁ……っ」
呆然とすることしか出来なかった。
龍は知性が高い。
だから、理解できてしまった。
ブレスも物理もきかない相手。
自分の全力を鼻歌交じりの片手で受け止めきれる異常者。
目の前にいる存在が、自分を遥かに超越した化け物である、
と、その高い知性が、答えを導き出した。
「――ひぃっ!」
理解が届くと同時、龍は、反射的に悲鳴をあげた。
心が叫びたがっていた。
「ば、ばかな……勇者ですら、そんなマネは……」
賢いからこそ、色々な思考が頭の中をめぐる。
人間の中で最強の存在は、勇者ドーキガン・ザナルキア。
彼の存在値は異常な領域にあり、その気になれば、聖龍王親衛隊を皆殺しにすることも不可能ではないだろう。
だが、そんなドーキガン・ザナルキアでも、
龍の突撃を、片手で受け止めるということは、さすがに厳しい。
オーラと魔力をひねりあげて、それなりの全力を出せば、ピクリとも動かず、龍の一撃を受け止めるということも可能だが、しかし、さすがに、こんな、まったくの素の状態で、龍の一撃を、蚊のように受け止めるのは不可能。