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18話 悪くないアイロニー。


 18話 悪くないアイロニー。


「……暗闇の中で迷っているというのなら、俺が道標になってやるから、一回ぐらいは、まっすぐに前を歩いてみろ。最近ちょっとヒマだから……退屈しのぎに、少しだけ、お前の光になってやる」


 本当は、のたうち回りたいくらい苦しい。

 周りに誰もいなければ、爆音の悲鳴をあげながら、のたうちまわっているだろう。


 ――だが、センは、カッコつける。


 バカみたいに見栄をはって、『なにも問題ないですけど、なにか?』みたいな顔で世界を見つめる。

 アホすぎる奇行。

 愚者の最果て。


 表面上は優雅に見えても、水の中では足をバタつかせている白鳥。

 そんなにいいものではないが、アイロニーとしては悪くない例え。


 舞台裏から見ると、とんでもないマヌケを晒しているセンは、

 その無様さを決して崩さずに、



「無駄に下を見るな。どんなに苦しくても前を向け。そこには必ず、俺がいる」



「な、なんで……」


 ミシャは、心底から『分からない』という顔で、


「私の『ごう』を……これだけ『大きな重荷』を……どうして、そんな顔で背負えるの……やせ我慢できるような重さじゃないのに……ど、どうして……」


「そんなに不思議がることか?」


「それの重さは知っている! 誰よりも知っている! 背負いきれるものではない!」


「お前のモノサシで俺をはかるな。俺は次元が違うんだ。俺の根性を前にすれば、この程度の絶望は裸足で逃げだ……げほっ、ごほっ、ぐへぇ、がはぁあっ!!」


 苦しそうに、黒い血を吐き出すセンを見て、


「もういいから! 無理をするな! 私を殺せ! 私ごと殺してしまえば! つながりを絶ってしまえば、それですむ話なんだから!」


「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……分からないヤツだな。俺にとってこの状況は、昼下がりのコーヒーブレイクと何ら変わらない平穏なものなんだよ」


 真っ青な顔、紫の唇、頬はこけ、目はくぼみ、肌はカッサカサになって、全身の水分を失っている。

 『死ぬ寸前』としか思えない末期の状況にあるセンに、

 ミシャは、


「……もういい。気持ちはうれしかった。……ぁりがとう……最後に、誰かの暖かさに触れることができて……私は幸せだった……生まれた意味はあった……本当に……ありがとう……だから……」



「生まれた意味なんかあってたまるか……そんなもんなくたって、厚顔無恥に生きていく……それが命のあるべき姿だって、どっかのエロい人が言っていた気がしないでもないぜ」


 と、ゴリゴリのファントムトークをかましつつ、

 センは、ミシャの頭に、ソっと触れて、


「黙って俺だけ見てろ。そうすりゃ、気付いた時には、ハッピーエンドの方から逆ナンしてくっから」



「……どうして……なんで……どうして……」



 いまだ、理解が出来ないという顔で疑問にまみれているミシャ。

 そんな彼女に、センは、


「どうしてもクソもあるか。男ってのは、『かわいい女の子の前で、どんだけ無様にカッコつけられるか』……それだけが『人生の全部』なんだよ。そんだけの話だ」


「……」



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