13話 死にたがりの美少女。
13話 死にたがりの美少女。
この場にいる三名全員が、しっかりと困惑していると、
空中に、いびつなジオメトリが刻まれた。
それは、まるで幾何学に対する挑戦のようだった。
その狂ったようなジオメトリから、
『彼女』は姿を現した。
ズタズタの黒い闘衣を雑にまとった美少女。
(……これは……成功なのか……失敗なのか……どっちだ……? ある意味で、大成功な気もするが……ある意味で、大失敗の予感もする……)
『とんでもないものを召喚してしまった』とは思うのだが、
どう『とんでもない』のかはさっぱり分からないという、
なんとも、あやふやな現状。
リグとラーバは、警戒心を全開にして、『彼女』を観察していた。
この場にいる男三名が、一律に固まっていると、
『彼女』は、血の涙を流しながら、
「……殺して……」
懇願をする。
心を締め付けられるような声で、
「……もう、誰も……殺したくない……私が私を抑えているうちに……はやく……殺して……」
痛々しい彼女の姿を見て、センは、
(……メンヘラを召喚してしまった……どうしよう……ていうか、あれは、モンスターなのか? 違う……よな……魔人かな……?)
などと、彼女について考察していると、
そこで、『彼女』は、センに向かって右手を向けた。
『攻撃でもされるのか?』と一瞬警戒したが、
それは、攻撃ではなく、情報の伝達だった。
彼女に関するデータが、一瞬で、センの頭の中にぶち込まれる。
彼女の名は『ミシャンド/ラ』。
こことは異なる世界の邪神。
生まれ墜ちると同時、彼女は、その世界に存在していた生命の命を奪い尽くした。
やりたくてやったわけではない。
彼女は、次元の違う『邪悪なオーラ』を内包するがゆえに、
『存在するだけ』で、意思とは関係なしに、周囲の命を奪ってしまう。
それは、ほとんど呪いだった。
彼女は、その呪いにもがき苦しんできた。
なぜだか、自殺することもできず、
己の邪悪なオーラを制御することもできず、
ただただ苦しみ続けてきた。
だからこそ、
ミシャは己の死を望んでいる。
「はやく……いつまでも、抑えられない……自分では自分を殺しきれないの……だから、私を……はやく、殺して……」
必死に自分を抑えつけて、どうにか、殺されようとしているミシャ。
そんなミシャを見たリグは、
「あの魔人、ごちゃごちゃ言っているだけで、ぜんぜん動かないな。……もしかして、動けないのか? これは、いったい、どういう状況だ? ラーバ、わかるか?」
「ごめん、全然わかんない……あの魔人は、苦しそうにしている……としか……」
「全く動かないし、脅威とは思えない感じだな……それにしても……あの魔人、とてつもない美少女だ……あれは、変態貴族に、死ぬほど高値で売れるぞ」
「え、捕獲する気? そ、それは、やめといた方が……まだ、何をするか分からないし」
「あれだけのレア種をただ殺すだけってのは、あまりにもったいなさすぎる。ちょうど、ああいう童顔の美少女型モンスターを高値で買ってくれる貴族の知り合いがいるんだ……間違いなく、数百万単位の金にはなる……それだけあれば、最高位のマジックアイテムで身をかためられる……つまりは、10つ星に、かなり近づける!」