11話 ヒーローの心構え。
11話 ヒーローの心構え。
「いくぞ、ごらぁあああああ! だぁりゃぁあああ!」
さらにワンランク上の気合を入れてから、
リグは、センに切りかかってきた。
全力の振り下ろし。
なかなか素晴らしい速度。
動きがあまりに直線的だったので、
センの洞察力があれば、避けるのはたやすい。
ギリギリのところで回避したセン。
――回避した直後の一瞬のスキを、ラーバは見逃さなかった。
『剣矢』という、斬撃属性の遠距離魔法を、無詠唱で放ったのだ。
ご丁寧に、『消音』という、攻撃時の音を消す魔法をかけて、
完璧な奇襲を放ったラーバ。
(剣士の特攻は囮か……っ)
センが理解した時には、もう遅かった。
神だったころのセンならば、もちろん、余裕で回避できるヌルい攻撃だが、
今の脆弱な肉体のセンでは、完璧な奇襲に対応できる力はなかった。
『戦場の高次理解』には達しているのだが、
それは、『机上の空論』ほどに空虚で、
「がぁあああっ!!」
反応速度が足りない。
ゆえに、センの腕は切り飛ばされた。
もろい体。
反射神経だけではなく、耐久力もゴミカス。
(前衛だけじゃなく、後衛も優秀……そんな二人が、まあまあ阿吽の呼吸……くそがぁ……ふざけやがって……レベル1のゴブリンに対処できる冒険者チームじゃねぇ)
リグとラーバは『まだ若い』し『冒険者として働いてきた期間も短い』ので、
まだ、8つ星に留まっているが、このまま成熟すれば、
最高峰である『10つ星』まで普通に昇格するだろうと言われている、
非常に将来有望な潜在能力激高の冒険者コンビ。
(やばい、やばい、やばい……いや、これ、マジで死ぬって……こんなところで死んでる場合じゃねぇのに、このままじゃ、ガチで死ぬ……え、どうしよう……マジでどうしよう……くそ、くそ、くそ……ソウルゲートさえあれば……ソウルゲートさえあれば、余裕なのに……1億……いや、1年でもいい……時間さえくれれば、どうとでも出来るのに……っ)
知らない間に、無意識が、ナイトメアソウルゲートに汚染されている。
ソウルゲートに依存して、ソウルゲートにすがるようになっている。
それは、『ヒーローの心構え』からはほど遠い。
ヒーローは、依存されることはあっても、依存してはいけない。
『これがなければ勝てない』などという甘えは、
ヒーローが持ってはいけないもの。
――『それが、理解できたから』というわけでもないのだが、
センは、そこで、ギリっと奥歯をかみしめて、
(バカか……鉄火場で、ないもんをねだってどうする……ちゃんと考えろ……目の前の現実を、リアルにどう対処するか……それ以外は考えなくていい。無意味な希望・願望は捨てろ。奇跡にすがるな。アホほど愚直に、現実とだけニラみ合え)
獰猛に意識を切り替えていく。
心を殺すようにして、弱さを切り捨てて、
自分の奥へと真摯に没頭する。
グルグルと、散々、考えた結果、
(可能性があるとすれば……あとは、ランダム召喚ぐらいか……俺の欠損部位を媒体にして、今の俺に召喚できる『限界以上の召喚獣』を呼ぶ……)