3話 年少さんレベルのお絵描き。
3話 年少さんレベルのお絵描き。
(普通に、殺気を向けられているし……これは……やるしかないパターンか……?)
小虫と、不安定な距離をとりつつ、センは、右手に魔力を込める。
(この体、やべぇ……『3歳の俺』も、相当やばかったが、それ以上にエグい)
重たいだけではなく、器用さにも欠けていた。
とにかくすべてが最低レベルで泣きたくなる。
(……しょっぺぇ魔力……マナコントロールもうまくいかない……この体、無能すぎる……才能がない。……魔力の操り方は、頭の中だと、完璧に理解できているのに、実際にやろうとすると、まったく、思い通りに『マナと触れ合うこと』が出来ねぇ)
この辺に関しては、『絵を描く技術』がイメージとしては妥当かもしれない。
頭の中にあるイメージを紙の上で表現するのはとても難しい。
理想の絵を描こうとした場合、まずは、『まっすぐな線』が描けるように訓練する。
次に『綺麗な丸』を描けるように訓練して、そこから、本格的なデッサンに入る。
対象の本質を把握する観察眼、立体感や陰影の忠実な表現。
才能がある人間なら、最初から出来てしまうものだが、
才能のない人間は、徹底的に訓練をして、
一つ一つの技能を磨き上げなければ話にならない。
(このやりづらさ……この体の才能の問題もあるだろうけど、俺自身が、『魔物の体に慣れていないから』ってのも大きそうだ……魔物の体は、勝手が違いすぎる……『人間の子供』の体に慣れすぎているせいで、全然、うまく動けねぇ……)
言うまでもないが、魔物と人間では、構成要素が全く違う。
歩き方ひとつとっても、『まったく違う筋肉の動かし方』をしている感じ。
根本的な『生命の本能』というものがあるので、
別に、誰に教わるわけでもなく、最低限以上の『生命活動』を出来ているが、
現状のセンでは、歩行も戦闘も『最低限』程度にしか出来ない。
(エグいな……難易度がヤバすぎる……こんな体で、かつ、たった50年じゃ、現闘をマスターすることも出来ねぇ……ど、どうしよう……)
――そもそも才能がない。
――魔物の体に慣れていない。
この二つの事実が、センに重たくのしかかる。
(まあ、未来を考えるよりも、まずは、目の前の現状をどうにかしねぇとな……とりあえず、アレが、『バグ』か『ただの虫モンスター』か知らんけど、俺に殺気を飛ばした以上、ただで帰れるとは思わねぇことだ)
心の中で、啖呵を切りつつ、
センは、右腕に魔力を込めて、
「――雷撃ランク1」
どうにかひねり出した魔力を込めたランク1の魔法。
魔法の場合『詠唱の型』をそのまま使っているだけなので、
特殊な発声となり、どうにか口に出せているが、
――別に喋れるわけではない。
雷撃の魔法を受けたバグは、
「ギィ!」
バチバチっと音をたてたあと、プスプスと煙を放つ。
普通にダメージは受けている模様。
「ギギギィ!」
ダメージは入ったが微量のようで、
バグは、まったく怯むことなく、むしろ、果敢に攻撃をしかけてきた。