最終話 ナイトメア・T・ルーレット。
最終話 ナイトメア・T・ルーレット。
「転生システム……え、具体的にどうなる感じ?」
「引き継げるのは記憶だけ。それ以外はリセットされる」
「……リセット……えぇ……これまで、100億年かけて積んできたものが、記憶以外、全部なくなるってのか? それ、エグくない?」
「なくなるわけやない。転生して中に入っている間は使えへんだけで、こっちに戻ってきたら、元に戻る」
「……なるほど……感覚としては、ゴミアバターで、VRゲームするみたいなもんか……」
その手の『未来技術』が用いられた作品も、山ほど読んでいるので、理解力は非常に高い。
「あと、記憶以外はリセットされるが、特別に一つだけ『スペシャル』を持ち込めるようになる」
「マジでか。それは、どんなスペシャルでも持ち込める感じ?」
「いや、ランダムになるな」
そう言いながら、T・104は、
ルーレットのようなものを取り出して、
「まわれ、ナイトメア・T・ルーレット」
そう言うと、矢印がまわりはじめ、
「とまれ」
という、Tの命令を受けて、ビタっと停止する。
矢印が示したのは、
「おお、大あたりやぁ! さすが、舞い散る閃光は格が違った! セン、お前の運命力には畏怖すら覚える!」
「マジでか?!」
「ああ。プラチナスペシャル『経験値12000倍』を持ち込めるぞ、やったな。このスペシャルは、『成長早い』系の中での最高格や。これをもっとるやつは、レベルがサクサク上がるで」
「……えっと、俺、この世界ではレベルが上がるってこと?」
「いや、お前のレベルは1がデフォルトや。どうあがいても上げることはできん」
「え、え、どういうこと? レベルが上がらんのに、レベルが上がるスペシャルを持ち込んでどうしろと? え、これ、どういうトンチ?」
「その辺は知らんけど、とにかく、今は、『かなり良質なプラチナスペシャルを獲得できた』ということを、純粋に喜ぼうや。らっきぃ、らっきぃ」
「……えっと、つまり、俺は、エグいほどのハズレを引いたって認識でオーケー?」
「まあ、見方と角度によっては、そうとも言えなくはない可能性がゼロではない方向性で明日を夢みとる感じが微レ存な晴れ模様」
「……」
「さて、ほな、そろそろ、中の世界に転生しよか。……ワシも頑張って、バグが暴れるんを、50年ぐらいは抑えておく。50年経過するまでにバグを殺せるぐらい強くなってくれ」
「ご、50年? たったの?! たったの50年でバグを殺せって?!」
「そうだ。じゃあ、セン。あとは頼んだ」
「え、まって。中で、ナイトメアソウルゲートは使える?」
「使えるワケないやろ。忘れとるかもしれんけど、今、まさに、ナイトメアソウルゲートの中で修行中の身なんやから。ナイトメアソウルゲートの中で、ナイトメアソウルゲート入るとか、それ、なんのマトリョーシカやねん。いや、この場合、ドロステ効果かな? ま、なんでもええけど、とにかく、ナイトメアソウルゲートは禁止やから、そのつもりで」
ナイトメアソウルゲートの中の一施設である『シャイニング/G‐クリエイション』で創った世界に転生する――という、なんともややこしい状況。
「……え、じゃあ、どうすんの? バグって、めちゃくちゃ強いんだぞ? 俺は、100億年を積んだから、どうにかバグを殺せたけど、50年程度の修行じゃ、ぜったいに勝てないぞ。ナイトメアソウルゲートすら使えない上、『バカの記憶』しか持っていないレベル1のクソアバターが、50年程度がんばったからって、何がどうなるってんだ」
「イヤならやめればええ。リセットして、創り直そうや。その方がはるかに簡単やと、最初からずっと言うとる。ワシは、あくまでも、『お前が中に入って対処するという方法もなくはない』と道を示しとるだけ。選択するんはお前の自由や。常にな」
「……」
「中に入って、バグを殺すか、世界をリセットするか。好きな方を選べ」
「……ぐぅ……」
「ぐうの音も出ないとはまさにこのことやな」
「いや、俺、今、ぐうって言ったよね」