64話 あるんじゃねぇか、そんなカンタンな方法が。
64話 あるんじゃねぇか、そんなカンタンな方法が。
「一からやり直しにはなるけど、『世界を創った経験値』はたまっとるから、次は、もっとうまくできるし、二度と同じ失敗はせぇへん。というわけで、世界を〆(しめ)よか。次の世界は、きっとうまくやるでしょう。ZAP、ZAP、ZAP」
そう言いながら、世界をリセットしようとするT・104に、
センは、
「ナメんなよ、カスが」
静かなブチ切れ顔で、Tをにらみつける。
センは、自分達が創った世界を指さして、
「もうすでに、生命は誕生していて、数十億単位で存在するんだぞ。あいつらは、ゴリゴリに生きている。リセットって、ようするに、その生きている数十億を全滅させるってことだぞ。ありえねぇだろ」
『まったく関係ない他人の命』は流石にまだ軽いものの、
さすがに『自分で創っておいて全滅させる』というのは、
いかがなものだろうか、という『極めて常識的』な思考。
「何回でも言うけど、選択するんはお前で、ワシは的確に道を示すだけや。リセットするしかない、という現実を教えてやっただけやのに、いちいちキレてくんな。鬱陶しいのう」
「意味のある道を示せっつってんだよ、ボケが。鬱陶しい頭いいアピールばっかりじゃなくてよぉ!」
バチバチにメンチを切り合う両者。
数秒のにらみ合いの末に、T・10rは、
「センエース。お前が中に入って対処する――という道もなくはない」
「なんだ、あるんじゃねぇか、そんなカンタンな方法が」
「けど、それをすれば、死ぬ可能性がある。いや、可能性があるってレベルやないな。めちゃくちゃ確率が高い。ほぼ自殺みたいなもんや」
「こちとら、生まれた時からずっと、『高確率の自殺』みたいな人生を、延々、やらせてもらってんだよ」
そう言いながら、センは、アップを開始する。
「正解の道を示せ、T・104。中に入って、俺は何をすればいい?」
「バグを可視化できるように調整する……あとは、見つけて、物理で叩き潰す。以上。ちなみに、可視化されたバグは、これだ」
そう言いながら、T・104は、エアウインドウに、『バグ』を表示して、センに見せる。
それは、『薄羽の生えたサソリ』みたいな形状をしていた。
「……その虫、なんだか、めちゃくちゃ見覚えがあるんだが」
「だからなんだ?」
「……いや、別に」
そう言いながら、心の中で、
(……世界というシステムのバグ、その具現化……悪夢バグも、ソレだとしたら……んー……いや、よくわかんねぇ……俺の頭じゃ、考えるだけ無駄か……)
『絶望を切り抜けるため』であれば、信じられない豪速で回転する頭脳なのだが、
安全圏にいるときの考察や洞察に対しては全く有用に働いてくれないピーキーな頭。
「まとめると、ようするに、俺は、バグを殺せばいいんだな?」
「ああ。ただし、お前が、この世界に入る時には、転生システムを使う必要があるから、そこだけ注意してくれ」
「転生システム……え、具体的にどうなる感じ?」
「引き継げるのは記憶だけ。それ以外はリセットされる」