63話 やっばいバグ。
63話 やっばいバグ。
「出来るなら、とっくにやっている! けど、お前のやっていることは、難しすぎて、何がなんやら、さっぱりわからねぇんだよ、カスゥ!」
「ついに、本音を言いやがった……さっきまでは、しつこく、ヒザを盾にしていたくせに」
「俺の演技が完璧すぎて、気付いていなかっただろうが、実は、ヒザなんか痛んでねぇんだよ! ばぁああか! 低能ぉお! 節穴ぁ!」
「さすがに、お前よりは賢いと思うで。というか、お前より下を探す方が難しそうやな」
などと、中身のない会話を繰り広げている間も、
センの観察と、T・104の調整は続いている。
と、その時、
T・104が、
「……ん?」
と、眉間にしわを寄せて、そう言った。
「どうした、T」
「なんか、やっばいバグが生まれてもうた……なんで、こんなことに……」
「T、ホウレンソウをしっかり。俺の理解力に対しては、常に最悪を想定しろ。俺は必ず、その斜め下をいく」
「もしかして、出力を上げるために、惑星の動力炉と接続させたのが問題なんか?」
「おい、T!」
「やかましい、ちょっと待たんかい。これは、早急に対応せんと手遅れになる――」
そう言いながら、
T・104は、修正を開始する。
しかし、
「あん? なんや、これ……え、ここもバグってるやん……え、こっちも? ……あ……オワタ……」
「なにがだぁあ?! 俺、完全に、置いてきぼりだから、説明して、Tさん!」
「現在、この惑星のコアは、動作チェックや熱管理を容易にするため、お前のクリエイションと繋げとるんやけど……おそらく、そのルートで直結して、コードを書き換えやがった……」
「生粋の3歳児に分かるように説明しろ!」
「ギミックに発生した知性が暴走を開始した。知性の発芽までは、想定通りの流れやったんやけど、そこから先が想定外。『高次虚理生命のAI』と『疑似神経回路システム』を結合させて、『自己を組織する複雑性』を獲得させれば、次のステージに進めると思うたんやけど……進みすぎた」
「お前、今の説明を理解できる3歳児がいると、本気で思うか? 仮に、本気で思っているんだとしたら、『世界で一番頭が悪い』と言わざるをえないぞ」
そこで、Tは、タメ息をついてから、数秒考え、
「……頭のいいモンスターを創ったら、頭よすぎて、こっちにハッキングしかけてきよった」
「パーフェクトな解説、感謝だ!」
センは、心からの『ありがとう』を口にしてから、
「創造主である俺達を困らせるとは、なんてヤンチャな子供たちなんだ。Tさん、シッカリと、しつけてあげなさい」
「無理やな」
「あん?」
「外側から対処できるような状況やない。『末期の癌』とか『デジタルタトゥー』みたいなもんで、こうなったら、もはや、処理することは不可能」
「え、じゃあ、どうすんの?」
「リセットして、やりなおしやな」
「……」
「一からやり直しにはなるけど、『世界を創った経験値』はたまっとるから、次は、もっとうまくできるし、二度と同じ失敗はせぇへん。というわけで、世界を〆(しめ)よか。次の世界は、きっとうまくやるでしょう。ZAP、ZAP、ZAP」