59話 T・104。
59話 T・104。
「おどれのバイオリズムは知らんがな。上手にアンガーマネジメントしてくれ、としか言いようがない」
「……その正論もイラっとするな……まあいいや……それよりも、今は、目の前の課題に取り組むことを優先しようか」
と、自分に強く言い聞かせて、
「いまは、まだ干渉圧縮率に数字を打ち込んで、時間加速アプリで100億年ほど経過しただけだ」
と、現状を答えると、
T・104は、
「……なんも出来てへんやんけ」
と、軽い一口感想を述べてから、
スっと両腕を胸の前で交差させる。
すると、T・104の周囲に、無数のエアウインドウと、エアキーボードが出現する。
「……まずは、基準となる星を決めよか……大事なんは恒星との距離。ええ感じの位置にあるんは……まあ、これかな」
タタタタァと、軽やかに、キーボードに何かを入力しながら、ぶつぶつと、
「70%が水で、基本構成は、岩石と金属。窒素・酸素を主体にしとって、多断層の大気が存在する……うん、ここなら、『脳を持つ生命体』の生存も余裕」
T・104は、そこで、センに視線を向けて、
「セン、10億年ほど加速するから、許可をくれ」
「よかろう。よきにはからえ」
「何様やねん」
無駄なやりとりをしつつも、
T・104は、どんどん先に進めていく。
そんなT・104を尻目に、センは、
「今、なにやってんの? ……いや、わかってはいるんだが、俺は、ホウレンソウを大事にしている男だからね。報告、連絡、相談は、常にやってもらいたいのだ。わかるね、Tくん」
「……さっさと、酸素を増やしたいねんなぁ。今の段階やと、カスみたいなバクテリアだけやから、光合成で酸素を生み出せるシアノバクテリアに生まれてほしいねん。生物の天敵はウイルスやからな。その天敵である酸素は必須」
「ああ、やっぱり、ソレをやっていた感じな。そうだと思ったんだよ。だって、それしかないもんな、タイミング的に、うん、うん」
T・104の補助のおかげもあって、
その星には、酸素が大量発生することとなる。
その結果、
――『進化指定アプリがアンロックされました』
「おい、T。なんか解放されたぞ」
「来たな……これで、ようやく人間がつくれる」
「ぉ、俺も同じことを思っていたところだ。そろそろ人間をつくらないと話にならないよな、うんうん。まあ、俺の視点だと、ワンテンポおそい感じだけどな」
「その気になれば、人間以上の生命をつくることも不可能やない」
「俺が言おうとしていたことを先に言うんじゃねぇよ、まったく。お前は、『困ったさん』だな。そういうとこだぞ」
「……」
ちなみに、進化の方向性を指定できるアプリは、コマンドプロンプトを用いて、細かく命令コードを打ち込み、地道にプログラミングしていくという、かなり面倒くさそうな仕様である。
そのことだけは、さすがのセンさんも知っているため、
「ここからの作業が大事かつ大変だな……さて、どうする、T・104くん」
「基盤となる部分は、ある程度、やるつもりでおるんやけど……セン、その辺も、全部、お前に任せた方がええか? どうやら、ワシがおらんでも、全部できるみたいやし」