16話 今日も風が騒がしいな。
16話 今日も風が騒がしいな。
「器用で、柔軟で、賢く、そつがない者――ワシは、よく、そう評価されますが、しかし、それでは届かない世界があることを、陛下と共に過ごした時間の中で思い知りました」
「……ぐぅ……ああいえばこういう……」
頭の回転速度や、論破力で、カンツに勝てるわけがないと理解したセンは方向性を変えて、
「俺は、顔面偏差値が2だ。これはダメだろう」
と、ラフな欠点で攻めようと画策。
あえて、シューリの言葉を借りて武装する残念ぶり。
「造形の美醜にとらわれることになんの意味が?」
本気で分からないという顔で首をかしげられてしまったため、センは何も言えなくなる。
「ちなみに、造形の美醜で言えば、正直なところ、自分でいうのもなんですが、ワシも、かなり下の方という扱いになっておりますが、世界を守るという視点で言えば、特に、なんの不便も感じておりませぬぞ」
自分の肉体美に対して自信はあるのだが、しかし、カンツはまわりが見えないバカではないので、自分の『顔面偏差値』という点に関する、社会的な評価は、ちゃんと理解している。
ジャミやクウリュートなどの容姿は、カンツの視点では、ただのヒョロガリなのだが、しかし、社会的な視点でいえば、絶世の美男美女。
そして、その社会的な視点で言えば、自分はごついゴリラでしかない――ということを、カンツは重々承知している。
「いや、お前の顔は味がある。深みとコクがある顔だ。属性が違うというだけで、偏差値で言えば、上の方だろう。他の誰がどう言おうと、俺の中ではそうだ。しかし、この俺にいたっては、どれだけのアバタエクボ視点で見ても、絶対的に、平均より下。……ここには大きな差がある」
「仮に、陛下の言葉がすべて、その通りだったとして、だから、何か問題が?」
「王は美形じゃないとダメだろう! だいたいのエンタメ作品において、主役は美形と決まっとるんじゃい! というわけで、俺は、主役じゃない! ヒーローでもない! 王でもない! 違うもん! 絶対に、違うもん! 俺は、ただの平凡な高校生だもん! 中肉中背、黒髪黒目で、勉強もスポーツも平均以下の、量産型汎用一般人だもん! 命の王じゃないもん! 祭りを遠くから眺めて、『今日も風が騒がしいな』とか、ボソっと言いたいだけの人生だったんだもん!」
ついに爆発してしまった感情論に対し、カンツは、
「臣民に視点を合わせたご冗談はその辺にして、そろそろ、本来の『尊い貫禄』を魅せつけていただきたい。陛下が何を言おうと、陛下が命の王であるという事実は変わりませぬゆえ」
「あのさぁ……このザマは冗談じゃねぇんだよ。俺という存在のありのままなんだよ。ありのまま、みっともないところを魅せてんだから、ちょっとぐらいは引いてくれよ、頼むから。そして、軽蔑して、俺の評価を下げてくれ。お願いだから。300円あげるから」
「明らかに無理をして、愚者を演じているところを見せられても、挨拶に困るだけですが?」
「いや、無理はしていない。けっこう、ガチで、素なんだが……」