15話 えげつない義務の押し付け。
15話 えげつない義務の押し付け。
「陛下が死ぬなど、ほかのどんな災厄よりも、あってはならんコト!! そのようなこと、『例え』であっても口に出して頂きたくない!! おわかりか!!」
「だから、なんで、そんなキレられることがある! 俺、お前らを守るために、けっこう、頑張ったよ?! それなのに、こんな理不尽な目にあうとか、どうかしてるぜぇ! ねぇ、ほんと、俺の人生、エグすぎん?!」
全力で心底からの嘆きを叫んでから、
センは、
「てか、マジで、9億分の1だったら、なにが消えているかすらわからんレベルだろ」
「ウムルとの戦いで、陛下に命を回収された際の記憶の中から、数秒ほどが消えております。ワシの記憶の中でも特に大事な記憶。それを……」
「うそつけぇええ! そんなもんわかるわけないだろ!」
「それなりにジョークを愛するタチではありますが、今の発言に関しては、冗談など、何一つ入れておりませんぞ、陛下」
「お前って、完全記憶能力者だったっけ?」
「そんなものなくとも、あの時の記憶が消えるわけがありませんとも」
「……」
「最後に、もう一度だけ釘を刺させていただきます。陛下、今後、同じように、願いが叶うことがあったとしても、絶対に、ワシらから、陛下に関する何かを奪おうとはしないでいただきたい。陛下との思い出は、ワシらにとって、最も大事なもの。『その人間にとって最も大事なもの』を奪おうとするなど、命の王の諸行とは思えませんぞ。陛下には、皆が愛する、絶対完全無欠の『命の王』で在り続けてもらわねば困ります。その責務は、陛下が永遠に背負い続けなければいけない義務。そのことを、どうかお忘れ無く」
「勝手に、人に、『えげつない十字架』を押し付けてくるの、やめようか。普通に死にたくなるから」
と、絶対的な前を置いてから、
「完全無欠命の王とか無理。前にも言ったが、俺は、ただの、どこにでもいる平凡な『高校生上がりの転生者』にすぎないよ。完全無欠どころか、欠点が多すぎてゲロ吐くレベルだ。どうせ、俺の記憶が消えないってんなら、そっちの方の事実をメインで心に刻んでくれ」
「ふむ。ちなみに、陛下の欠点とは?」
「とりま、才能がない」
「才能がないのに、頂点に立たれたのであれば、そちらの方が、命の価値としては高いと思いますが? 才能とは、いわばブースター。バフのようなもの。バフなしの、完全なる自力だけで、命のゴールにたどり着いてしまわれるとは……感嘆せざるをえない偉業中の偉業」
「……ぁ、あと、性根が腐っている。人間性が下の下。底辺を這いずる虫けら。そこに関しては、あの『性格が終わっているコトでお馴染みの蝉原さん』をも下回る」
「人類の頂きどころか、神の領域をも超越した、絶対的ともいえる精神的な高みに到っていながら、まだ、自分は『ふもとにいる』と考える。その『果て無き領域外』に至った『狂気の高潔さ』……見習いたいものですなぁ。陛下は、まさに、ワシが理想とする王の中の王。この世に存在するすべての生命に傅かれてしかるべき高次生命の中の高次生命」
「……あと、友達がいない。真正のクレイジーサイコボッチ」
「孤高のヒーローとはそういうものなのでしょう。『誰にもすがることが出来ぬ完全なる極限状況で、も歯を食いしばらねばならぬ運命』を強く自覚しているがゆえの業。そのカルマと向き合い続けることが出来る極致の姿勢……感服いたします」
「……不器用で、頑固で、頭が悪く、要領も悪い」
「器用で、柔軟で、賢く、そつがない者――小事におけるワシは、よく、そう評価されますが、しかし、それでは届かない世界があることを、陛下と共に過ごした時間の中で思い知りました」
「……ぐぅ……ああいえばこういう……」