14話 9億分の1。
14話 9億分の1。
「その89人関しては、あとで早期発見・捕縛ののち、徹底的な再教育を施し、『陛下、万歳』しか言えない体にしてやろうと思っております」
「ははっ、おもろいジョークが言えるようになったじゃないか、カンツさん。しかし、お前ほどの立場にいるものが、その手のジョークを口にするのは感心できないなぁ」
流石にカンツがガチでそんなことをするはずがない、と思っているのだが、チラッと、カンツの目を見ると、マジでラリっているように見えたので、ちょっとだけ心配になるセン。
「てか、89人? 異常に少なくね? 本当にそんだけ? 第二九アルファの人口って全部合わせたら700億人くらいいるよね? その中の89? そんなわけある? 俺のアンチなんか、絶対にもっといるだろ」
「なにをおっしゃいますか。恐ろしく多い数字です。今後は生まれた瞬間から、徹底した教育を通して、全ての学校教育、すべての学年で、神学の完全履修を強制し、満点以外は留年確定、赤点の場合は即退学というルールにさせていただく予定です」
「その予定は、今、この瞬間に、永遠の未定へと変貌した。神の王の命令は絶対。それが神学の基本だから、逆らえないよね?」
「ちなみにですが……『この上なく尊き命の王センエース神帝陛下に関する記憶を消してほしい』……その願いを胸に抱く御方の数『御一人』、その願いに反対する者の数『786億8987万6006人』、受け入れたカス『89匹』……その割合に照らし合わせた願いの叶え方が実行されました」
786億人という数は、第二~第九アルファに属する全世界人口。
その全員の頭の中から、『センエースに関する記憶』の『9億分の1』が消去される。
その事実を聞かされたセンは激怒する。
「俺に関する記憶の……『9億分の1』てっ! そんなもん、消えたうちに入らんだろうが! 命の終着点に届いた褒美が、そんなカスって、ありえねぇだろ! てか、9億分の1てぇえええ!! ――なんだ?! 俺が半年前に履いていた靴下の柄でも忘れたってか?! ふざけんじゃねぇ!」
とブチギレているセンの向こうで、カンツが、もっと鬼の目をして、
「あらためて言います。ワシらから、陛下に関する記憶を、わずかたりとも奪わないでいただきたい。この件に関してだけは、ワシら全員、本気で怒りを感じております」
「なんで、そのテンションでガチギレできんの?! 9億分の1の記憶がなくなったところで、何が変わると思ってんの?! バカなの?! 死ぬの?!」
「ほかのことならいざ知らず、陛下に関する記憶だけは、ほんのわずかであろうと、決して無くしたくないのです」
「9億分の1の記憶を奪っただけで、そんな、親の仇みたな目で見られるの?! 俺が親じゃねぇの?! その目は、俺を殺した相手にむけろ!」
「陛下が死ぬなど、ほかのどんな災厄よりも、あってはならんコト!! そのようなこと、『例え』であっても口に出して頂きたくない!! おわかりか!!」
「だから、なんで、そんなキレられることがある?! 俺、お前らを守るために、けっこう、頑張ったよ?! それなのに、こんな理不尽な目にあうとか、どうかしてるぜぇ! ねぇ、ほんと、俺の人生、エグすぎん?!」




