9話 バイバイ。
9話 バイバイ。
「もういい、蝉原。ソレは死ぬ」
「ああ、そうさ。対応を誤れば、君が死ぬ!!」
蝉原は、命の全部を限界以上に燃やして、最後の最後に、とても綺麗な悪あがきを決め込んだ。真っ赤に燃えるオーラが、蝉原の拳に力をくれる。
「殺神覇龍拳!!」
ソレは、とてつもないエネルギーを誇る一手だった。
センエース以外が受け止めた場合、誰であろうとチリ一つ残さず消滅する。
そう断言できる極限の一手。
そんな一手に対して、
センは、
「……バカが」
あえて、避けずに受け止めた。
蝉原の拳は、センの顎にヒットすると同時、氷細工みたいにパリィンと豪快に砕け散った。
砕けた腕の余波で全身にヒビが入る。
誰が見てもわかった。
蝉原は、もう死んでいる。
ギリギリのところで、意識だけは残しているが、それも時期に消えてしまうだろう。
「……セン君……」
消えゆく前の、最後の灯火の中で、
蝉原は、太陽みたいな笑顔で、
「ありがとう」
そんな言葉を口にした。
「なんの礼だよ」
「わからないよ。でも、言わずにはいられなかったんだ」
「……」
「……」
静かな時間が流れた。
音が立場を見失う。
ほんのわずかな静寂を置き去りにして、
センが、ここではないどこかに、視線を外して、
「死ぬのか?」
センの問いに、蝉原は、
ニっと太陽みたいに微笑んで、
「蝉原は滅びぬ。何度でも蘇るさ」
「……そうじゃなきゃ困るな。俺のストレス解消役がこなせるサンドバッグは、他にいないんだから」
「くく……」
蝉原は、おかしそうに笑ってから、
「……じゃあ、またね セン君」
「ああ、またな」
その言葉を最後に蝉原の肉体も意識も、
完全に、この場所から消えてしまった。
サラサラと、ゆらめいて、世界へと溶けていく。
その瞬間、二人(+1)を包み込んでいた謎空間が消失した。
周囲には、ゼノリカの面々が揃っていた。
みんな、まぶたをとじて、センと蝉原の戦いを見ていた。
ゼノリカの面々は、いっせいに片膝をつき、王の帰還を、涙ながらに歓迎する。
興奮と感動に包まれている彼・彼女らから、つい、ふと視線を外してしまう、恥ずかしがり屋さんのセン。
ごっつ恥ずかしい時間が緩やかに流れたところで、
蝉原が死んだ箇所に、黒い瞬きができた。
配下たちは、また何かよからぬことが起きるのかと警戒していたが、
しかし、なぜか不思議と、センは警戒する気にならなかった。
黙って見つめていると、
その黒い瞬きは、
センの元へとフラフラ飛んできて、
そのまま、センの中へと溶けていく。
それは、『蝉原が奪い取っていたもの全て』だった。
蝉原の死の果てが萌ゆる。
センは、その手に、輝く明日を掴んだ。
『蝉原が奪い取ったフラグメントの全て』が、センの中へと回収される。
そして、センの中で、『ヌルから回収した半分』と、『蝉原から回収した半分』とが合わさって、『完全なる一つ』になる。
「……ミッション、コンプリート……ようやく任務完了。……ほんと、ずいぶん、時間がかかっちまったな……」
おそろしく時間がかかったが、
どうにか、こうにか、なんとか、かんとか、
『全て』を完璧に取り戻したセン。
――それがスイッチとなった。
―― ファイナル裏イベントスイッチ ON ――




