8話 無敵の閃光。
8話 無敵の閃光。
「この上なく尊き命の王、舞い散る閃光センエースよ。――ただの、情けない、君に焦がれた『武神の一柱』として、手合わせ願いたい」
まっすぐな目で懇願されたセンは、もうなにも言えなかった。
「いいだろう……いくぞ、蝉原。殺してやる」
そう宣言してからのセンは轟雷羅刹。
対する蝉原は、獅子奮迅。
蝉原は、心が折れているとは思えないほど、鬼気迫る怒涛の猛攻で、センエースに、少しでも傷を与えようと必死。
蝉原は……己の神生の全てを投入して、
ほんのわずかでも、センエースにダメージを与えようと、命の全部を賭す。
そんな蝉原に、
センは、
「余威の鴉と虚数殺し」
グリムアーツを放った。
一見、ただの、空を握るアイアンクロー。
無造作に、何もない場所を掴んだだけ。
だが、
「ぶふっ」
蝉原の全てが蒸発する。
ギリギリのところで残っていた命は、ただの慈悲。
そんなセンエースの甘さに、
蝉原は喰らいつく。
「殺神覇龍――」
ほんのわずかな隙に勝機を求める蝉原。
彼の足掻きを、センは笑わない。
笑いはしないが、しかし、賞賛もしない。
ただただフラットな対応。
まるで、『シャツの袖に跳ねたコーヒーのシミをハンカチで拭う』ぐらいの冷静な対応を施すセン。
丁寧に処理された蝉原は、
「うわぁぁぁっっ!!!」
――自身になにが起きたか理解することができなかった。
傍目にも、センがなにをしたのか、誰も理解できない。
センがやったのは、一言で言えば空気投げ。
引き手と釣り手に、ほんの少しだけエネルギーを込めただけ。
最小かつ最短かつ最速。
アッパーカットを決めようとした蝉原の腕に触れて、ソっと引いただけ。
それだけで、蝉原は逆バンジーのような、ありえない吹っ飛び方をして、そのまま豪快に、地面へと叩きつけられた。
コンマ数秒ののちに、蝉原は、自分がセンに投げられたと理解した。
センが使った空気投げは、『蝉原の中にいる超苺』が得意としている技。
だから、すぐに気づけた。
コンマ数秒気づけなかったのは、あまりに練度が違いすぎて、一瞬、まったく別の技のように感じてしまったから。
蝉原は、ギっと奥歯を噛み締めて、
そのまま反撃の一手に出ようとして、
しかし、
「真空・清流閃脚」
センのライダーキックが、蝉原の顔面にクリティカルで炸裂。
バギィっと首がへし折れる蝉原。
ギリギリ残っていた命が、さらに一回り小さな灯火となる。
蝉原は、
その僅かな灯火に全てをかけた。
命を燃やす――
――すべての。
だからこそ美しいし、
だからこそ醜い。
センは、
「もういい、蝉原。ソレは死ぬ」
「ああ、そうさ。対応を誤れば、君が死ぬ!!」
本当はセンが死ぬなどと、微塵も思っていない。
蝉原勇吾ごときじゃ、何があっても、センエースは殺せない。
知っている。
わかっている。
そんなことは誰よりも。
しかし、蝉原は、止まらない。
命の全部を限界以上に燃やして、
最後の最後に、
とても綺麗な悪あがきを決め込んだ。
真っ赤に燃えるオーラが、蝉原の拳に力をくれる。