4話 祈りの質が変わっていく。
4話 祈りの質が変わっていく。
センエースの『正気じゃない献身』を目の当たりにした民衆。
女も男も、子供も老人も、悪人も善人も関係なく、みな、一様に涙を流した。
――もちろん、中には、懐疑的な者もいた。
こんな映像は『加工されたプロパガンダだろう』と穿った結論を抱く者もいた。
所詮は映像記録でしかないから、そういう邪推に染まる者もいなくはなかった。
どんな状況であれ、民衆の心が一つになることはありえない。
だが、大半の者が、センエースの狂気的な献身に対して、深い愛を抱いた。
だから、変わる。
祈りの性質が変わる。
『この苦しみから救ってくれ』と縋り付くのではなく、
『この身にかえても神を支えたい』という高次の想いへと昇華されていく。
『私の命でも、糧になるでしょうか?』
『この身は、あなた様を支える器たりうるでしょうか?』
『私のオーラを、魔力を、全て捧げる』
『あなた様の尊さだけが。命の答え』
『私たちは、これほどの神に支えられていながら、それを知らずに生きていたのか……』
『無知であったことを許してほしいとは思わない。ただ、この身を奉げる許可だけ頂きたい』
『あなた様のためだけに死にたい。それ以外の死に意味はない』
『罪に穢れしこの身でも、何か出来ることはあるでしょうか?』
『我ら全てを支えてくれた神よ。今度は、我らが、あなた様のために――』
『神よ。神よ。神よ』
『あなた様こそが、全てを包み込む光』
『リラ・リラ……』
『……ゼノリカ……』
全てが繋がっていく。
感情が、結集して、ゼノリカ(全てを包み込む光)になっていく。
数百億人単位に及ぶ想いの結晶が、センエースに降り注ぐ。
これは奇跡ではない。
センエースが積み重ねた軌跡に対する、人類のアンサー。
今まで一方通行だった献身が、ようやく、やっと、相互作用を持つようになる。
それだけの話。
『神』という概念は、『信仰を力に変えること』が可能。
友情パワーがどうとか、仲間の絆がどうとか、そういうスピリチュアルではなく、あくまでもシステムの話。
蝉原のディアブロコミュニティと根源の方向性は同じ。
純粋で、無垢で、そして、実のところは、ただただシステマチックな話。
だったら、蝉原だけが、その恩恵を受けるのはおかしな話。
センも、恩恵を受ける方がフェアというもの。
蝉原は、数百兆という悪意の下地を受けているが、
それは、『強制的な支配』によるもの。
そもそも、悪人の質量は、根本、薄っぺらい。
自分の欲望に負けた者。
茨道を歩む勇気がなかった怠惰なクズ。
そんなザコと、
『まっすぐに、己の業と向き合い続けた者たち』を一緒にしてはいけない。
センエースが背負っているのは『ゼノリカ(自戒の結晶)』であり、
そして、そのゼノリカの支配を受けている者たち。
――心の強さという点では、まだまだ頼りない面々だが、
しかし、少なくとも、怠惰な悪人なんかよりは質量的に上。
……だから、届く。
届かない訳がない。
「……んっ?」
最初に、違和感を覚えたのは、蝉原だった。
センエースの『輝きの質』に変化が生じている。
「……きているね……目覚めようとしている。わかるよ、セン君。君は……今から、遠いところにいこうとしている」
「みたいだな……こみあがってくるのを感じる。……今日までに積んできた全部が、沸騰している……そんな気がする……」