2話 とことん、まっすぐ。
2話 とことん、まっすぐ。
「狡猾さをメタろうとしてくる相手に対し、素直に、狡猾さをお届けするほど、俺は優しくないよ」
「まっすぐ来るとは思ってねぇんだから、まっすぐ来るんじゃねぇ! ビビるだろうがあ!」
「ははは。知ったことじゃないねぇ」
徹底的に、まっすぐなストレートをど真ん中に投げ続ける蝉原に、
センは、
「ウザすぎんぞ、てめぇ!」
心の底から思った言葉を叫ぶ。
あえて、蝉原の行動を『ルーレット』で例えると、
蝉原は、最初から、ずっと、赤を出し続けているみたいなもの。
『次こそは黒がくるだろう』『次は0がくるだろう』と思っているセンに、
蝉原は、徹底的して、赤を出し続ける。
その狂った『まっすぐさ』は、もはや狂気。
「そろそろ、バグ技とか、裏技とか、コピーとか、使ってこいよ! このままだと、お前、勝てねぇぞ、蝉原!」
まっすぐな勝負では、蝉原はセンに勝てない。
数値で言えば、蝉原はセンを上回っているが、
しかし、センエースの根性を考えると、
この程度の出力差では、
蝉原がセンエースを削り切ることは難しい。
「セン君……俺は、今回、とことん、まっすぐに行くよ。正面から君を殺す。それが俺の正義だ」
あえて、『正義』という言葉を使ってまで、センを翻弄していく蝉原。
そこまで言われてしまえば、
『あ、これ、次こそは裏をかいてくるな』
と、疑わずにはいられない。
だって、蝉原が、正義を口にしたんだもん。
そこまでキショい伏線を張ったということは、確実に、虚をついてくる。
その絶対的な信頼を、
蝉原は裏切っていく。
蝉原は、ゆるがない。
連続の赤を、
ど真ん中のストレートを、
狂ったように、投下しつづける。
「この蛇がぁああああ!」
と、蝉原を罵倒するセン。
『まっすぐな蛇』という『狂気』を前にして、センは、
「はぁ……はぁ……」
乱れた呼吸と向き合っていく。
暴れて、裏をかきあって、
まっすぐに殴り合った果てに、
センは、
蝉原に、
「お前、マジで、最後まで、俺と正面からやり合い続ける気か?」
「ああ。そうでなければ届かない世界に行きたいから」
「嘘くせぇ……が、もし、それが本音なんだとしたら、俺はお前の全部を認めてやるよ。お前は事実、お前の力だけで、俺の前に立っている。本当の意味でソレができたやつはお前だけだ。お前がバグを使っても、真醒・裏閃流で吹っ飛ばすだけだが、お前は一度も弱さに負けなかった」
「そこに関しては、俺がどうこうじゃない。ただ、『美しい君』の『ラスボス』は、美しくなければいけないと思っただけさ」
「嘘くせぇなぁ……ずっと、『裏の裏』を裏にしやがって……」
そこで、センは、蝉原との向き合い方を変えた。
蝉原を、蛇ではなく、武の化身として考える。
「ここからは、ただ、まっすぐにいく。耐えきれなくなって、搦め手を使い始めたところが、お前の最後だ」
などと牽制をいれる必要はなかった。
蝉原は、本当に、徹底して、愚直な武の化身で在り続けた。
3兆年かけて磨きぬいてきた全部を、あますことなく、センにぶつける。