1話 決着をつけよう。
1話 決着をつけよう。
もともとのセクスタプル(六重)神化に、追加で『二つの固有神化』を積んでいくという、無茶苦茶な暴挙を重ねていく。
脅威のオクタプル(八重)神化を果たす蝉原。
膨大に膨れ上がった蝉原は、
その深い輝きをセンに見せつけながら、
「さあ、セン君。決着をつけよう。どっちが強いか どっちが相手を殺せるか 原始的な頂点を、幼稚な暴力で、愚かしく、無様に……決めようじゃないか」
(クッソでかくなったな、蝉原。今のお前、ガチでとことん輝いているぜ。本当に惜しいよ……お前が正しい王になれば、世界は完璧になるのに。少なくとも、俺が王をやるよりかは)
心の中で、ただ、つぶやいてから、
センは、
「いくぞ、蝉原! 殺してやる!」
そう叫び、センは飛んだ。
愚かしい修羅たちの狂宴。
陽炎になる残影。
地を這う流星が重なり合って瞬く。
蝉原は、冷静に、センエースの急所を狙った。
中心をぶっ壊すために全力を賭す。
ただの攻撃では無意味。
安い一手では、センエースは削れない。
深く功利を追及した一手に邁進。
蝉原の全部が正しく沸騰する。
膨大に膨れ上がった出力で、センエースを包み込もうとする。
そのムーブは意地でもあるし、誇りでもある。
「――龍閃崩拳っ!」
『あえて、龍閃崩拳をジャブにする』という奇策で、蝉原の虚をつこうとしたセン。
割いたリソース分のリターンは得られなかった。
蝉原は、センの奇抜な行動を前提にして動いているから。
性根の腐った蛇。
だからこそ察知できる独特の匂い。
蝉原相手に奇襲は、なかなか成功しない。
蝉原は正しく腐っているから。
「蝉原ぁ! 俺が蛇に見えたか?! だとしたら、お前が蛇なんだ!」
などと叫びつつ、
今度は、奇策を囮にする直球で蝉原の呼吸を乱そうとするセン。
『アウトローの遅い変化球』を強く意識させた状態で投げ込む、ど真ん中の直球。
奇策に見えて実は定石。
メビウスの輪の裏の裏。
巧みに、虚と実を共存させる真理の一手。
『神闘の型』の練度で言えば、200兆年を積んできたセンが遅れをとるはずがない。
択の強制押し付けを徹底することで、蝉原の動きを制限しようとするムーブ。
そんなセンの姑息な戦略を、蝉原は一蹴する。
「殺神覇龍拳」
あえて、『基礎を徹底するメソッド』で、蛇の強みを消していく。
個性と強みを、あえて研磨して、丸く尖っていくという謎の秀逸。
蝉原を蛇だと疑わないセンに対するカウンターとしては有効な手。
心理戦において、『裏の裏』を、裏として使っていくという姑息。
あえて例えるなら、蝉原は、『変化球投手のくせに、ずっと、ど真ん中の直球ばかりを投げ続けている』みたいなもの。
アホになったわけじゃない。
愚直になったとかじゃない。
――王道をも邪道に堕としめる狡猾な大蛇。
『蝉原は、絶対に蛇であり続ける』と、確信の域で認識しているセンは、
蝉原が『次こそは、変化球で目をそらしてくる』と、信じて疑わない。
『信用に値しない蛇』という個性を、
あえて、徹底的に殺しつくすことで、
蝉原は、センの裏をかき続けている。
これは、蝉原にしか出来ない手法。
最低な蛇にしか打てない神の一手。
『蝉原を信じているセンエース』だけに届く奇策。
センはギリっと奥歯をかみしめる。
「うぜぇなぁ! もっと、まっすぐに、狡猾さを見せろやぁ! お前は蛇だろうがぁ! 蛇なら、蛇らしく、卑怯にこいやぁ!」
「狡猾さをメタろうとしてくる相手に対し、素直に、狡猾さをお届けするほど、俺は優しくないよ」
「まっすぐ来るとは思ってねぇんだから、まっすぐ来るんじゃねぇ! ビビるだろうがあ!」
「ははは。知ったことじゃないねぇ」
まっすぐな拳のぶつかり合いの中で、
センは、常に、蝉原の狡猾さを待っている。
『トリッキーでダーティな搦め手』に対するカウンターを想定して動くと、基本的な動きがトロくなる。
すべての一手が、毎回、後手になってしまう。