108話 誇りなんかよりも、はるかに大事なもの。
108話 誇りなんかよりも、はるかに大事なもの。
「センエースはねぇ、お前らを守るためだったら、肥溜めに落ちることすら厭わない、そう言う、イカれたお馬鹿さんなんだよ! 俺が展開させている瘴気世界『ホロウワールド』は、お前らがセンエースを憎めば憎むほどに効果が薄くなるタイプの特殊仕様が施されている。だから、彼は、お前らの憎悪を必死に受け止めていたんだよ! センエースはそういう、世界一愚かで美しいヒーローだから!」
蝉原の言葉を聞いて絶句する民衆。
理解するための脳が働かない。
まるで、考えることを放棄しているみたい。
「必死になって、お前ら全員を守ろうと、地獄の釜の底を這いずり回って、ずっと、ずっと、ずぅぅっと、縁の下の力持ちをしてくれた王様に、お前らは、唾を吐きかけて、全員で袋叩きにしたんだ! わかるかい、悪党ども! 俺は悪党の神だが、カルマ度で言えば、貴様らよりはるかに下だ! はははっははははは!」
絶句している民衆の心の機微を肴にして、
腹がよじれるほど大笑いしている蝉原に、
トウシが、
「おどれ、センと『誇りをかけて約束』したんやろ? それやのに、なんで約束を破る?」
「誇りなんかよりも、はるかに大事な物があるんでね。俺は俺にとって大事なもののためにしか動かない。センエースと同じさ」
蝉原は満面の笑みでそういうと、
「さて、それじゃあ、ホロウワールドの出力を上げていこうか。ここまでは、最大でも暴走インフルぐらいのしんどさだったけど、ここからはガチで苦しいよぉ。とりあえず、まずは、ガン患者の闘病生活ぐらいの痛みを背負ってもらおうか」
そう言いつつ、
蝉原は、世界中に広がっている瘴気の濃度を上げていく。
かなりえげつない痛みになったことで、その場で倒れ込む者が大量に続出。
大勢の苦しむ姿を眺めながら、
蝉原は、
「あー、いぃ!! 頭の隅々まで脳汁でヒタヒタになる!!! 幸せだ。これほど多くの絶望を生み出すことができた、この事実が、幸せでたまらない! 満たされていく! 長い時間をかけて自分を磨いてきて、本当に良かった! センエースを殺せた! 世界中に不幸を撒き散らすこともできた! やりたかったことが全部できた! 運命よ! ありがとう!!!」
大声で、己の幸運に感謝を叫ぶ。
そんな蝉原に、
トウシは、
「ギルティチェイン/ハタタカミ:ソードスコールノヴァ」
強烈な雷剣の弾幕をぶち込んでいく。
蝉原は、トウシのカマシを予想していたらしく、全く動揺することなく、
「イビルノイズ・カンファレンスコール」
弾幕に対して弾幕を展開することで対応する。
自慢の必殺技を、楽勝で打ち消されたトウシは、
「ああ、こらアカンなぁ。今のお前が相手やと、ワシは使いもんにならんなぁ」
「ははは。そりゃそうだろう。俺と君は、どちらも、『センエースの心を折ったことがある』という点に関しては同列だが、積み重ねた時間という点では天と地の差がある。センエースの扶養でぬくぬくしていただけの君が、実際に3兆年を積んだ俺に勝てる道理は微塵もない。あっちゃいけない」
「そうやな。今のワシでは、話にならん。というわけで、ワシはここで命を消費しようと思う」
「ほう」
「ワシの命をくわせて、無理矢理にでも、蘇らせる。あのアホには、まだまだ、仕事をしてもらわんとあかんからのう。ワシのかわりはナンボでもおるけど、あいつのかわりは一人もおらん」




