107話 命ってのは、どうして、こう……ほとほと醜いんだろうね。君は、こんなにも美しいのに。
107話 命ってのは、どうして、こう……ほとほと醜いんだろうね。君は、こんなにも美しいのに。
ザクっと、蝉原に、自分の中心を砕かせるセン。
とことんまでオーラを抑えた状態だったから、殺されるのは簡単だった。
死にゆく中で、センは、
蝉原に、
(……ま、任せたぜ、蝉原。真なる命の王よ……貴様がナンバーワンだ)
最後にそういうと、
センエースは絶命した。
力なく項垂れるセンの死体を受け止める蝉原。
本当に死んでいるセンを見つめながら、
「セン君。君は、本当に面白い男だなぁ」
センの死を受けて、
民衆は歓喜の声を上げた。
蝉原の勝利を、大半の民衆が喜んでいる。
その歓声の中、
蝉原は、烈火のような表情で、虚空を睨みつけていた。
(セン君……命ってのは、どうして、こう……ほとほと醜いんだろうね。君は、こんなにも美しいのに……)
センの死体をギュッと強く抱きしめる蝉原。
そんな、不自由な時間が数秒過ぎたところで、
グニャァ、バギィ!!
――という、空間がひん曲がる音が響いた。
蝉原が、反射的に視線を向けると、
そこには、眉間にシワを寄せたトウシが立っていた。
空間に乱入してきたトウシに、
蝉原は、センの死体を抱きしめたまま、
「ヒーローは遅れてやってくる、といった感じかな?」
「ワシはヒーローやない。ただのワト◯ンくんや」
「ホ◯ムズより何倍も賢いワ◯ソンくんか まあ、ソレはソレで需要あるのかな。知らんけど」
軽いファントムトークでお茶を濁してから、
「で、何をしにきたのかな?」
「そこのアホが勝手に死によったから、後処理にきた。とりあえず、聞いておくけど、おどれ、ほんまに、今後、世界の王様やるんか?」
「あははははは! やるわけないだろう! センエースは消えた! これで、もう俺の邪魔をするものはいない!」
そこで、蝉原は、世界中に展開させている瘴気を膨らまして、
「バカだねぇ、民衆ってのは、本当に愚かだ」
蝉原は、真っ黒な笑みを、第二~第九アルファの全人類に向けて、
「必死になって、『自分たちを守ろうとしてくれたヒーロー』を、自ら憎んで、死なせて! はははははは! 俺は自分が相当な悪人であると自覚しているけど、お前ら極悪人どもよりはよっぽどマシだよ! 比べたら、もはや善人だ! お前らは救われるに値しない! 死んで当然のクソばっかりだ!」
大笑いしてから、
「ん? あ、俺宛のメッセージがたくさん届いているね。何通か読み上げようか。えーと、――『センエースが死んでも瘴気が消えない、それどころかずっと苦しくなっている、騙したのか?』……はい、そうです。――『願いを叶えてくれないんですか?』……はい、そうです。――『上げてもらった存在値が元に戻った。騙したのか?』……はい、そうです。――『嘘ですよね?』……いいえ、嘘じゃありません。お前らは全員苦しんで、苦しんで、苦しんでから……死ぬ!」
ある程度、お便りを読み上げてから、
「バカだよねぇええ! はははははは! ま、でも、愚民なんて、実際、こんなもんでしょ! センエースが何をしてくれたかなんて、考えもしない! さっき、あのバカが悪態ついていた理由、切り抜き動画に文句を言わなかった理由、その辺、ちゃんとわかっているやつ、ほとんどいないだろう! センエースはねぇ、お前らを守るためだったら、肥溜めに落ちることすら厭わない、そう言う、イカれたお馬鹿さんなんだよ! 俺が展開させている瘴気世界『ホロウワールド』は、お前らがセンエースを憎めば憎むほどに効果が薄くなるタイプの特殊仕様が施されている。だから、彼は、お前らの憎悪を必死に受け止めていたんだよ! センエースはそういう、世界一愚かで美しいヒーローだから!」