106話 お前なら、俺にはできないことを平然とやってのけるだろう。そこに痺れて憧れるしかないのが俺の現状だ。
106話 お前なら、俺にはできないことを平然とやってのけるだろう。そこに痺れて憧れるしかないのが俺の現状だ。
(……なんでこの提案が通っているのか、不思議でならないんだけど。こんなもん、『世界の半分をお前にやろう』みたいなものじゃないか。ダメだよ、ヒーローが魔王の言葉を鵜呑みにしちゃ)
(お前は、そこらの、しょぼい魔王じゃない)
(……)
(だから、そこらのしょぼい魔王みたいに約束を破ることはない。俺以外との約束なら破る可能性はあるが、お前は俺との約束だけは破らない。お前は『誇り』をかけて、俺と約束をした。お前のプライドは、俺との約束を反故にするほど安くない。お前が積んだ3兆年って数字は、そんなに軽くない。俺は詳しいんだ)
(……)
(蝉原、冗談じゃなく、俺はお前を認めているんだよ。お前はすごい男だ。『ただ200兆を積んだだけの俺(無能)』とは違う。所詮、俺は、どこにでもいる凡の者。時間を積むぐらいしかできないポンコツ。お前はそんな俺とは違う。本物のカリスマと天才性を誇る超人。お前ならたくせる。俺が望んだ全部を。――『心の弱さ』や『脆い悪』をも完全支配できるお前が、本気でやれば、『俺なんかでは永遠に届かない理想郷』を実現することも容易い。俺は詳しいんだ)
(……)
(ずっと考えていたんだ。やっぱ、俺じゃねぇよなぁと。世界の王ってのは、俺じゃなく、もっと『出来のいいやつ』がやるべきだ。ステータス評価で100点取るやつやるべきであって、俺みたいな、顔面もステータスも赤点ギリギリのカスがやるべきじゃない」
(その理屈なら、俺じゃなく田中トウシがベストじゃない?)
(トウシじゃ、実績が足りねぇ。あいつも潜在能力は大したもんだが、器がちぃとたりねぇ。まずはガチの1億年を積んでから出直してこいって感じだ。あいつと違い、お前は文句なしのパーフェクトだ、蝉原。本物の絶望を積んできた上、全ての悪人を魅了できるカリスマスーパースター。お前こそが、王に相応しい。お前ならやれる。お前なら、俺にはできないことを平然とやってのけるだろう。そこに痺れて憧れるしかないのが俺の現状だ)
(……)
(全員の願いを叶えると言ったな、蝉原。お前なら可能だ。悪人を魅了できるお前なら、悪人として生きてきた側の連中の希望も、うまいこと処理できるだろう。欲に溺れただけの生粋ガチンコ悪人のことは知ったこっちゃないが、世の中には、悪人にならざるを得なかった立場の奴もいる。お前が言った通り、最初から悪人って方がレアだ。『悪人側に傾いてしまった者』の中でも、大半は、環境次第でまともになれる。中には『本気の勇気を叫べるやつ』だっているだろう。そういうやつらの救済みたいなことも、お前ならできる。というか、やれ。これは、『俺とお前の契約』の範囲内だ。シカトはゆるさねぇ)
(……)
(約束したからな、蝉原。俺が死ねば、お前は王になる。願ってもいなかった理想の条件を出してくれてありがとう)
そこでセンは、あえて、蝉原の攻撃届く範囲に踏み込んだ。
蝉原は、攻撃の手を止める隙さえ与えられなかった。
その拳に殺気は微塵もなかったのだが、しかし、『生命力を限界まで抑え込んだセンの中心』には、否応なしに届いた。
「ぐべぇへっ!!」
ザクっと、自分の中心を砕かせる。
とことんまでオーラを抑えた状態だったから、殺されるのは簡単だった。
死にゆく中で、センは、
蝉原に、
(……ま、任せたぜ、蝉原。真なる命の王よ……貴様がナンバーワンだ)