105話 よっしゃ、ソレでいこう。
105話 よっしゃ、ソレでいこう。
「おいごらぁ、くそどもぉ! さっきも言ったように、蝉原を応援するのは勝手だがなぁ! 俺が勝ったあかつきには、蝉原を応援していたやつ、全員、殺すからなぁ! ただ殺すだけじゃねぇぞ! 一族郎党皆殺しだ! 女は犯し、男は拷問する! ガキはミンチにして、親に食わせる! それが嫌なら、蝉原を応援するのをやめやがれぇ!」
あえて『北風』を徹底することで、旅人のコートをロックする構え。
意固地な反発を強制的に発動させる、逆・人心掌握術。
結果として、センを憎むようになる者の数も増えたのだが、
逆に、『センに対する恐怖から、蝉原を応援することをやめる者』もいる。
――人の心は難しい。
完全なるコントロールは無理。
北風に吹かれてコートを脱ぐ者もいる。
人の心は千差万別。
(ムッズいなぁ、人間ってのは……ほんとうに、厄介……ほんと、嫌い……)
『全員から憎まれるのは難しい』と判断したセンは、『この状況』を、『自分にとって都合よく終わらせられる手段』を必死になって考える。
せっかく、『大量の民衆から嫌われている』という理想的な状態なので、このヘイトは維持したまま、どうにか蝉原を『適切』に処理する方法はないものかと頭を悩ませる。
だが、なかなか思いつかない。
うーん、うーん、と悩んでいると、
そこで、
蝉原がテレパシーで声をかけてきた。
(セン君。ここで提案だ)
(提案? ほう。興味あるね)
(ホロウワールドで悪意を育てて、大量の悪人を形成し、俺の器にして、君を圧殺する……というプランも、別に悪くはないのだけれど、それよりも、もっといいプランを思いついたから、ぜひ、検討してほしい)
と前を置いてから、
(もし、次の一撃で死んでくれたら、君に代わって、俺が世界の王になってあげるよ)
(ほーう)
(俺にとっては、世界中を悪意で埋め尽くすことよりも、君を殺すことの方が価値としては上。だから、誇りにかけて約束するよ。『君が望む通りの王』になると。君をこの手で殺せるなら賢君になることも厭わない。だから、ここらで死んでくれないかな?)
(非常に魅力的な提案だな)
(約束するよ。セン君。俺は、君が思い描いた未来を作る。だから俺に殺されてくれ)
そんな蝉原の提案を受けて、
センは、ニっと微笑み、
(……よっしゃ、わかった)
と、まさかの、首を縦に振ってから、
(ソレで行こう。じゃあ、サクッと死なせてもらうから、あとは頼んだぞ、蝉原)
(……)
(どうした、蝉原。『頼んだぞ』っつってんだから、胸を叩いて『任せろよ』と叫べよ。これは、お前が始めた物語だろ)
(…………いやいや、うそだよね? ただのノリツッコミだよね まさか、本気で、この提案を受けるわけないよね? ありえないよね? こっちは、『君にバッサリ断られてからの流れ』を詰めた上で提案を――)
(ありえなくねぇだろ。ゴチャゴチャ言わなくていいから、さっさと俺を殺せ。そして全人類の王になるがいい。お前如きには、そんな末路がお似合いだ。ザマァ見ろ)
センの『ファントムトーク風、本気メッセージ』に対し、蝉原は、
(……なんでこの提案が通っているのか、不思議でならないんだけど。こんなもん、『世界の半分をお前にやろう』みたいなものじゃないか。ダメだよ、ヒーローが魔王の言葉を鵜呑みにしちゃ)