103話 俺は俺のワガママだけが全てだ。俺以外の誰がどれだけ苦しもうが知ったことか!
103話 俺は俺のワガママだけが全てだ。俺以外の誰がどれだけ苦しもうが知ったことか!
「さあ、全員で俺に祈りを捧げ、そして、同時に、センエースに憎悪を向けようじゃないか。俺を崇拝するほどに、センエースに悪意を向けるほどに、君たちは救われる。逆に、センエースが俺を攻撃するほどに、俺の『センエースの瘴気を抑えこむ能力』が低下して、君たちは苦しむことになる」
事実、センに悪意を向けると楽になれた。
そして、センが殴られるほどに、全員の苦しみが軽減し、センが蝉原に攻撃すると、全員が苦しむ。
そんな時間をすごすうちに、
だんだんと、センを、心から憎むようになる、大半の人類。
ベルを押すと餌が出てくる――それと同じ。
センエースへの憎悪が、条件反射になっていく。
センエースを見ると怒りが湧いてくるように調教されてくる民衆。
もちろん、全員がセンを憎むわけじゃない。
『蝉原の悪意』や『己の心の中の悪魔』に対し、全力で抵抗するものもいる。
数少ない『センエースの真実』を知るものは、必死になって、センエースを応援する。
そして、周囲に、『蝉原の嘘』を必死になって訴える。
だが、どれだけ必死に説得しても、『センエースを知らないもの』は信じない。
だって、事実、蝉原がセンにダメージを与えるたびに体が楽になり、センが蝉原にダメージを与える度に苦しくなるのだから。
それに、先ほど見せられた映像の件もある。
仮にあれが蝉原の嘘なら、なぜ、センエースは否定しない?
否定するどころか、自信満々に肯定していたんだが?
それは、いったい、どういうことだ?
……『目の前の現実』と『アホみたいな盲信』、
どっちを信用するかなど二択にすらならない。
その状況の中、センは、
(……『全人類から恨まれる』……なんか、前も、どっかでこんなことがあったなぁ どこだったかな 忘れたわ。マイノグーラ? それともイブ? 完全に忘れたな……正直、どうでもいいことだから)
『誰にも届かせる気がない言葉』を、心の中で、ボソっと、そうつぶやく。
……と、そこで蝉原は、民衆には聞こえないように、テレパシーで、
(さあ、セン君、どうする? 俺を攻撃すると、多くの弱い命が苦しむことになるよ。ちなみに言っておくと、今の君じゃ俺は殺し切れないけど、もし、俺が死ぬと、瘴気は最強状態で永遠に残るからね。死後に強まる念みたいなものさ。君でも、流石に秒速での完全除去はできないよ。ある程度の時間を使えば完全除去も可能だろうけど、その時には、多分、人口の8割ぐらいは完全に死んでいるから、そのつもりで。ちなみに、『死んだ八割』を『蘇生させること』は絶対に許さないからね。俺の意地と全生命にかけて、必ず、『完全死』まで持っていく。だから、『超覚醒を果たして、俺を殺す』っていう手段にも頼れない。君的にはだいぶ詰んでいる状態。……さて、そういった諸々を踏まえて、どうする、セン君)
(どうするもこうするもねぇよ)
そこで、センは、
民衆に向かって、声を張り上げる。
「あんな証拠出されちまったら、もうお手上げだ! こうなったら、もう、いっそ、とことんまでいってやるぜ! 映像だけじゃ物足りないだろうから、改めて、俺の口から言ってやるよ! 耳の穴かっぽじって、よく聞け、カスどもぉお! 俺は俺のワガママだけが全てだ! 俺以外の誰がどれだけ苦しもうが知ったことか! 俺が可愛いがっているのは俺の感情論だけ!! お前らのことなんかしらぁぁぁん!!」
冗談には思えないテンション。
――『この発言は嘘ではない』と誰もが思った。
ゆえに、『全人類(センを正しく知らぬ民衆)』の憎悪が膨らむ。