102話 センエースは、とことんメンヘラで、最高にクールな、自己愛と承認欲求のスカベンジャー。
102話 センエースは、とことんメンヘラで、最高にクールな、自己愛と承認欲求のスカベンジャー。
蝉原はパチンと指を鳴らした。
すると、全員の頭の中に、ぶつ切りの映像が流れる。
それは、センエースの言動を記録したもの。
これまでに、センが『実際』に口にした最低ゼリフをまとめた『黒の章』である。
長尺で垂れ流されるそれを、ガッツリと監修したセンは、ボソっと、
「メチャクチャいい出来の最低まとめ集だな。蝉原、お前はディレクターとしても天才だ。これだけ、『俺という人間』が『詳細かつ端的に表現された資料』は他にない。謎の美化修正がくわわった聖典なんかとは比べものにならない、俺の芯をリアルに納めた傑作集。これこそが本物の聖典。永久保存必至のパーフェクトディレクターズカット版」
などと、絶賛するセンの視線の先で、
蝉原が、民衆に向かって、
「……ここで、センエースに『この映像に対して、何か異論反論弁論があるか』を尋ねてみることにしよう。さあ、セン君。何か、言い訳があるなら、民衆に聞かせてあげてくれ。今、見てもらった最低な発言は、何かの間違いかい? 命の王が、あんな最低なことを、無意味に口にするわけがないから、何らかの、よんどころのない事情があるのだと思うのだけれど? そのへん、どうだい? 詳しく説明してくれ」
「よんどころのない事情なんか皆無。反論なんかあるはずもなし。あれは、完全に、俺の素だ。あの切り抜き動画に、改竄、捏造、フェイク、印象操作なんかは、いっさいない。センエースは、あの映像にある通りの、とことんメンヘラで、最高にクールな、自己愛と承認欲求のスカベンジャーだ」
「……そう。その通り。事実、俺は、あの切り抜き映像を一ミリたりとも加工していない。実際にセンエースの言動をコスモゾーンの記録保管庫から、『完全ランダム』に拾ってきただけ」
今の蝉原のセリフにも嘘はない。
選りすぐりの『センエース最低発言まとめ』の『中』から『完全ランダム』で選んだ。
決して『全ての発言の中からランダムで選んだ』とは言っていない。
印象操作は、小技が大事。
こういった細かいテクの積み重ねで、
蝉原は、民衆のヘイトを上手にコントロールする。
「民衆諸君、センエースという神がどういう存在であるか、よくわかっただろう。と言うわけで、みんな、俺を応援してくれ。センエースの敗北を願ってくれ。その応援が実り、センエースを殺せた暁には、『抽選で10万人』などと、セコいことは言わず、全員の願いを叶えよう。金品、家族、健康、才能、肉欲、全て、叶えてあげるよ!」
「パーフェクトだ、蝉原。文句のつけようがない完璧な作戦。俺の負けだ」
己の敗北を認めるセンエース。
そんなセンを尻目に、蝉原は、民衆に向けて、続けて、
「さあ、全員で俺に祈りを捧げ、そして、同時に、センエースに憎悪を向けようじゃないか。俺を崇拝するほどに、センエースに悪意を向けるほどに、君たちは救われる。逆に、センエースが俺を攻撃するほどに、俺の『センエースの瘴気を抑えこむ能力』が低下して、君たちは苦しむことになる」