99話 悪神センエースを倒して、瘴気を消してあげるから、俺を応援してね。
99話 悪神センエースを倒して、瘴気を消してあげるから、俺を応援してね。
「俺のことはともかく、センエースを知っているものは多いだろう。君たちの王だ。実在すると知らなかったものも多いだろう? そして、信じていなかった者が大半だろう? 聖典教信者には朗報。無神論者諸君には凶報。センエースは実在する」
蝉原は、続けて、
「君たちの王センエースと戦っている、この俺は、君たちにも分かるように言うと、強さの結晶だ。最強という概念の親玉だと思ってくれたらいい。今、センエースは、『自らの最強』を証明するため、俺という最強神を殺そうと躍起になっている。だが、勝てない。センエースでは足りない。俺には絶対に勝てない。俺の強さが100だとしたら、センエースの強さは20ぐらいだ。センエースは、その80の差を埋めるために、自分の財産である君たち臣民を使うことに決めた。いま、世界中が、謎の瘴気に覆われていることだろうが、これはセンエースが力を求めた結果である。瘴気を介して、君たちの生命エネルギーをセンエースが奪い取っている。全ては俺に勝つため。浅ましいことだ」
「おいおい、随分と性悪なホラをかましてくれるじゃねぇか。瘴気を展開してんのはてめぇだろ」
「センエース。君はそう言うしかないだろう。自分の欲望のために、配下の生命を脅かしているなど、認められるわけがない」
「ほーう、そうくるか。なるほど。うまい手だ。流石の狡猾さだぜ、蝉原。おそれいる」
ここでセンがムキになって反論したところで、真実がどっちであるか、判断する術を、民衆は持ち合わせていない。
蝉原とセンエース、それぞれの人柄を正しく理解している者であれば、悪意の権化である蝉原の言葉を信じることはないだろうが、しかし、現状、おおくの民衆は、どっちのこともよく知らない。
だから、判別しようがない。
民衆は、歴史の授業や聖典で『センエースは高潔な神である』と、散々叩き込まれているが、『叩き込まれてきたが故に懐疑的になってしまっている』という、厄介なディスアドバンテージも抱えている。
根本的な前提の話をすると、マブタの裏にうつっているこの男が、本当にセンエースかどうかも正式にはわからない。
「今、世界を覆っている瘴気は、君たちがセンエースを憎悪することで薄くなる。そして、俺がセンエースを殺すことに成功すれば、完全に除去できる。というわけで、さあ、みんな、俺を応援してくれ。俺たち神は民衆の信仰を武器にできる。君たちが俺を応援すれば、俺という最強神は、より強化され、センエースという悪神は弱体化される。ゼノリカは美しいが、センエースは醜い。その現実を、どうか受け入れてくれ」
「……別に応援が欲しいとは思ってねぇし、蝉原を応援したいなら止めはしないが 一応、反論しておくと、蝉原が言っているのはデタラメだ。瘴気を展開しているのは蝉原だから、俺が死んでも、瘴気は消えねぇぞ」
と、申し訳程度の反論をかましていく。
そんなセンに、蝉原は、民衆に聞こえないよう、センだけにつないだテレパシーで、
(セン君、俺は、ここまでに、たくさんのデタラメを吐いてきた訳だけれど、『民衆が君を憎むほどに、瘴気の濃度が薄くなる』というのだけは本当だよ)




