95話 悪人は蝉原の養分。
95話 悪人は蝉原の養分。
「できれば、敵じゃなく、道具になってもらいたいんだがな。それだけの力があれば、今後の世界運営で、色々と役にたつ。というわけで、どうだ? ボクの下で働いてみる気はないか? それだけの力を消してしまうのは惜しいよ。君なら、ギニュ〇隊長より、よほどいい仕事をしてくれそうだ」
「ふふ。嬉しいスカウトだが、しかし、俺が君のファミリーになることはありえないよ」
「そういうと思ったよ。第一アルファ人という連中はバカといっていいほどガンコだからね」
「君も、その第一アルファ人なんだけどね」
「この俺様を、貴様らのような醜いサルと一緒にするなぁ! 俺は、あんなクソ世界と、一切かかわりあいがない! 俺様は、生粋の第二アルファ人だ! 第二アルファ人の中でも、特に高貴な血筋であるこの俺様を、下賤な第一アルファ人呼ばわりとは! まったく、とんでもない侮辱! 訴訟!」
「神の王とは思えないセリフだねぇ……まさに、人間失格」
と、軽く笑ってから、
自分の両手をグーパーグーパーしつつ、
「新しい自分の可能性に、だんだんと慣れて、馴染んできたよ。これなら、まだ、いけそうだ。俺は……まだ、膨らむことができる……」
そう言うと、蝉原は、スっと目を閉じて、
「世界中の悪人ども……オラに元気を分けてくれ。これはお願いじゃない。命令だ」
そう、命じられてしまえば、抗う術はなくなる。
知らん間に、強制的に、無意識に、『元気(純粋なエネルギー)』を奪われる悪人たち。
893兆人分のエネルギーを、限界まで徴収した蝉原のオーラは膨大に膨らむ。
一人一人から奪える量は、ぶっちゃけ微少だが、しかし、数がハンパじゃないので、十分に、下地の一つにすることはできた。
サイコジョーカーの苦痛を分散する器であり、蝉原のオーラと魔力を支える下地にもなる。
悪人とは、なんて便利な養分なんでしょう。
「とんでもない質量だ。ふふ……これだけあれば、どうにかなるかもしれない」
ボソっと、そうつぶやいてから、
蝉原は、センの目を見つめて、
「どうかな、セン君。俺は大きいかい?」
「ああ、大きいよ。バカみたいに膨らんでいる。そして、その膨らんだ数値に負けていない素体の強さ。見事だ……そこらの雑魚が、その力を背負っても、振り回されて終わりだが、本物の土台を積んできたお前は、正しく、その力を運用できる。お前は大きい。立派だぜ」
「ふ、ふふふ、くくくくくくくっ」
心底から楽しそうに笑ってから、
蝉原は、
「嬉しいなぁ。君に、そこまで言ってもらえるほどの男は俺以外にいないだろう」
「……かもな。てか、多分な」
「セン君。今の俺なら、そう簡単には壊れないから、思いっきり来てくれていいよ。遠慮はいらない。君の、『底なしの優しさ』を俺に提示する必要はない」
「俺の優しさはだいぶ極小で有限だし、そもそもの話、お前にマイナス以外の感情を提示する気は微塵もねぇよ。ツッコむのダルいから、ボケまくるのやめてくれる?」
その言葉が、お遊びの最後。
グンっと、空間を圧縮するような勢いで、蝉原は時空を駆け抜ける。