90話 『自力の200兆年』と『灰化無効の3兆年』の差。
90話 『自力の200兆年』と『灰化無効の3兆年』の差。
(つ、強すぎる……理解が出来ない……)
実のところ、数値だけで言えば、ソルと一つになった蝉原の方が上。これがターン性のRPGだったならば、確実に、蝉原が勝つと言えるだけの数値的な差が、そこにはあった。
(RTA走者を前にした中ボスの心境とはこんな感じだろうか……こんなにもみじめで、こんなにも心細い……)
蝉原は、心の中で自嘲する。
もう、本当に、手も足も出ない。
現時点ですでに敗北確定なのに、
センエースは、まだまだギアを上げていく。
(遠すぎる……こんなにも……遠いのか……)
『自力の200兆年』と『灰化無効の3兆年』の差を思い知る。
どんどん加速していくセンエースを前に、
蝉原の心は、
「すごいなぁあああ! セン君!! 君は、世界で一番美しぃいいいいいいいいいいいいいい!」
輝きに満ちていた。
絶望が何周もして、もう完全にマヒってしまった。
センエースの輝きを、最前列で愛でる狂信者の一人になる蝉原。
一つだけ、そこらの狂信者とは違う点がある。
蝉原の強欲・独占欲は、常識の範疇には収まらない。
「君の敵でありたい! 君の視線を独り占めにしたい! 君の美しさを、もっと、もっと、もっと、目がくらむほど、輝かせたい! 俺にはできる! それが出来る! 俺だけが、その役目を果たせる!」
蝉原の『奥』で、可能性の火がまたたく。
3兆年を積んだ天才。
その下地が、センエースという眩さに触れたことで、ようやく開花する。
深く、深く、自分の奥にもぐりこんで、自分を縛り付けている歪な鎖を引きちぎる。
グンっと、厚みが増していく。
膨張していく。
殻が……破れる……っ!
「――日蝕神化ぁあああああああああああ!!」
翼のように両手を広げ、天を仰ぎ、
蝉原は叫んだ。
新しい極致。
破壊衝動ソルの可能性を、
クアドラプル神化に注ぎ込む。
そうしてたどり着いた、
五重奏の奇跡、
クインティプル神化。
爆発的に存在値を底上げした蝉原は、
「……これでも……全然足りない……わかっているよ、セン君。君の美しさに……俺はまったくついていけていない。けど、安心してほしい。これで終わりじゃないよ。まだある。まだあるからね! 残っている可能性も、そろそろ開くから!」
そう言いながら、
蝉原は、センエースとのインファイトを所望する。
中~遠距離の攻撃を一切封じる。
互いの吐息が触れる超接近戦だけがジャスティス。
狂気の沙汰ほど面白いという歪んだイビル。
悪も正義も全部飲み込んで、今という時間に、とことん没頭する蝉原のソウル。
そんな蝉原の本気に、まっこうから、真摯に迎え撃つ、 完璧で究極の偶像。
センも見たいと思っているから。
蝉原の最果て。
蝉原が、どこまでいくのか、
そして、最果てにいたった蝉原に、自分は勝てるのか。
バカな男特有の欲望……サ〇ヤ人じゃなくとも、この手の感情は存在する。
積み重ねてきたという自負があるからこそ、この想いは、より強く暴走する。
「蝉原。世界を守るという観点で言えば、成長する前の、今のうちに、お前を消してしまう方が正しいだろう。しかし、それは、さすがに、つまんねぇよ。今の俺にとっては、今のお前ごときを潰すのは、蟻を踏みつぶすのと大差ねぇ。せっかく200兆年も積んだんだ! この力を思う存分、ふるわせてくれよ!」
「ああ、まかせてくれ、セン君! 必ず、君を輝かせてみせる!」
命の華が萌ゆる。
蝉原のあがきが、
魂魄の最果てに、
片手を届かせる。
さあ、うたおう。
大団円を飾ろう。
ここが、本当の、
クライマックス。




