89話 センエース・クレイジーサイコボッチ。
89話 センエース・クレイジーサイコボッチ。
「そこらのカスどもと比べれば、もちろん、俺は絶対的頂点に座する覇王。けど、そんな俺も、君の前では、虫ケラになりさがる。セン君……君の美しさは……バグっている。もはや気持ちが悪い。ワンパクがすぎる精神異常者。キチ〇イの終着点にして、毒電波の発信源。奇行種の中の奇行種。変態界が誇るぶっちぎりナンバーワンのエキセントリックスーパースター。名状しがたいフルパレードコズミックホラー・クレイジーサイコボッチ」
「いい響きだ。今まで、散々、称号をもらってきたが……ソレに勝る看板はなかった。今後、自己紹介で使わせてもらうぜ。俺は……全世界の影に潜む憂鬱、クレイジーサイコボッチ。……いいねぇ……正式に改名しようかな……『センエース・クレイジーサイコボッチ』……あ、いいねぇ。よし、決めた! 今後は、これを俺の学名とする!」
などと、優雅に狂っているセンを、
愛のある微笑みで見つめている蝉原。
蝉原も狂っている。
センエースの輝きにあてられて、
完全に狂ってしまった。
バグった二人は、
互いに、数秒だけ、沈黙を尊んでから、
……センが、
「……じゃあ、そろそろ殺すから……ちょっとぐらいは抵抗してから……死んでくれ、蝉原」
そう言うと、
蝉原は、ニっと笑って、
「お手柔らかに頼むよ、セン君」
言葉を交わし合った直後、
二人の姿が音もなく消える。
静かな世界の片隅で、
初手を魅せたのはセンエース。
「神速閃拳」
様子見のジャブではなく、
明確に『削り』を入れにいった拳。
しなやかに、切れ味鋭く、蝉原を刈り取ろうとする。
その拳に対し、蝉原は、必死の抵抗を示した。
破壊衝動ソルとの完全融合を果たしたことで、
蝉原の数値は跳ね上がっている。
ゆえに、先ほどよりもマシな抵抗が出来ている……
が、『さっきよりもマシ』という領域からは出ていない。
「……っ」
悲痛の悲鳴だけは飲み込んだが、
しかし、表情は隠しきれていない。
できれば、余裕の笑みで迎え撃ちたいのだけれど、
センエースの猛攻が鋭すぎて、今の蝉原では、
美しい対応が出来ない。
泥臭く、ただ、耐え忍ぶばかりの虫ケラ。
センエースは、さらにギアを上げていく。
蝉原はすでに、『とことんまで追い詰められている』が、しかし、『センエースが200兆年をかけて築き上げてきた高み』は、まだまだこんなものじゃない。
(つ、強すぎる……理解が出来ない……)
実のところ、数値だけで言えば、
ソルと一つになった蝉原の方が上。
これがターン性のRPGだったならば、
確実に、蝉原が勝つと言えるだけの数値的な差が、そこにはあった。
しかし、現状は、例えるなら、死にゲー。
センエースは、RTAの世界記録保持者みたいなもの。
死にゲーにおいては、プレイアブルキャラよりも、敵の方が、数値上では、圧倒的に強い。
HPも攻撃力も、すべてがケタ違い。
だが、歴戦の死にゲーRTA走者は、そんな、『自分よりもはるかに優れたステータスを持つ化け物』を、赤子の手をひねるように、プチプチ・サクサクと潰していく。
(RTA走者を前にした中ボスの心境とはこんな感じだろうか……こんなにもみじめで、こんなにも心細い……)




