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88話 俺の全部をくれてやる。だから夢を見せてくれ。


 88話 俺の全部をくれてやる。だから夢を見せてくれ。


 ……センエースと比べれば、蝉原が積んだものは小さいが、しかし、事実として、蝉原は、3兆年を積んでいる。その事実だけはレプリカじゃない。だから、蝉原は――折れずに奥歯をかみしめることが出来た。絶望と恐怖と畏敬と心酔と憧憬と崇拝と独占欲と、そういう、あまりにも複雑な感情を、全部、まるごと、ギュっと胸の前で抱きしめて、


「俺の全部を棄てて、お前の全部を使えば……ちょっとくらいは……センエースの敵になれるかな?」


 声は小さかった。

 体も震えている。

 凄く小さな背中。

 正直、情けない。


 けれど、ソルは、蝉原の背中に、可能性をみいだした。

 おびえ、震え、狂いそうになりながら、

 しかし、それでも、『欲しいモノ』のために、前へ進もうとする姿勢を、

 ソルは、『真の勇気を持つ者』として認め、非常に好意的に受け止めた。

 だから、


「……すべてを失う覚悟があるのならば……『限りなくゼロに近かった可能性』を、『ほぼ間違いなくゼロの可能性』にまで押し上げることは可能」


 ゴミみたいな言葉遊びの冗談……そう認識してもおかしくないセリフだったが、

 しかし、蝉原は、そんなソルのふざけた発言に、希望の光を見出した。


 ほんのわずかでも……どんなに小さくとも……それでも、

 可能性があるのであれば、最後の最後まで抗い続けてやる、

 そういう覚悟をかためる蝉原。


 ――蝉原は、



「……俺の全部をくれてやるよ、ソル……感情も記憶も未来も、何もかも全部……だから……夢を見せてくれ」



「200兆年を積んだセンエース……その絶対的な絶望を前にして、それでも折れずに前へ進もうとする気概……確かに見届けた」


 そう言うと、

 ソルは、蝉原の背中に手をあてて、


「――イビルノイズ/ムーンライト・サンソウル・アマルガメーション――」


 詠唱の直後、

 ソルの全てが、

 蝉原の中へと溶けていく。

 と、同時に、

 蝉原の全ても、

 ソルの中へと溶けていった。


 溶け合って、混ざり合って、

 そして、




 ――自由になるの。





「……すぅうう……はぁぁあ……」



 完全なる一つになった時、

 蝉原は、厳かな深呼吸で身を清めてから、

 パチっと目を開けて、センエースを視界におさめる。


 センエースの神々しい輝きを見つめながら、

 蝉原は、


「セン君。君は……美しいなぁ……」


 と、ただの素直な感想を口にした。


 そんな蝉原に、

 センは、


「なんだか、いまいち、よくわからんが……もしかして、あれか? お前、俺が200兆年積んだことを知らなかったのか?」


「ああ。俺は、君が、5兆6000億年積んだ、としか聞かされていなかった」


「……ほう。となると、お前が実際に積んだ時間は……2兆8000億年ってところか?」


「3兆年だよ、セン君。俺は……必死に頑張って、キッチリ3兆年を積んだ」


「3……か」


「笑ってくれていいよ、セン君。君と比べれば、俺は文字通りの虫ケラだ」


「3兆年を積めるやつは虫ケラじゃねぇだろ」


「あくまでも、君と比べれば、の話だよ。そこらのカスどもと比べれば、もちろん、俺は『最果ての頂点』さ。誰も真似できない領域に立った、絶対的頂点に座する覇王。けど、そんな俺も、君の前では、虫ケラになりさがる。セン君……君の美しさは……バグっている。もはや気持ちが悪い。ワンパクがすぎる精神異常者。キチ〇イの終着点にして、毒電波の発信源。奇行種の中の奇行種。変態界が誇るぶっちぎりナンバーワンのエキセントリックスーパースター。名状しがたいフルパレードコズミックホラー・クレイジーサイコボッチ」


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