表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1186/1228

87話 200兆年。


 87話 200兆年。


(……このバカ、もしかして 『50兆』ぐらい積んだんじゃ……)

 

 『5兆の段階でもあり得ない数字なのに、その10倍なんてあり得るわけがない』と、心や理性では考えるのだけれども、『センエースという異常奇行種なら、そのあり得ない不可能を可能にしてしまうかもしれない』という、あまりにもイカれた疑心暗鬼に駆られてしまう。

 『そんな疑心暗鬼は、誇大被害妄想だ』

 『いくらなんでも50兆はありえない』


 理性が叫ぶ。

 魂魄の芯が震えているのがわかる。


 ――蝉原は、


「…………セン君」


「あん?」


「君は……」


 そこで、言葉が詰まった。

 己の臆病さに辟易しながらも、

 しかし、蝉原は、最後の一歩を踏み出せずにいる。


 聞くのが怖い。

 確定させるのが怖い。

 地獄のような結果を受け止める勇気が出ない。


 ウジウジしていると、

 そこでセンが、


「俺がどうした?」


 急かしてくる。

 センは『焦らされている』と思っているが、決してそうではない。


「……ぐっ」


 蝉原は、一度、ギュっと目を閉じて、

 深呼吸挟んでから、


「君は、その美しさを得るために、いったい、何年積んだのかな?」


「なんだよ。改めて、ここで自慢させてくれるのか? 随分と気前がいいじゃねぇか。いや、お前がそんなことするわけねぇな。となると、ははーん。お前、俺の数字の半分を積んだことを、改めて自慢するための踏み台として、俺を利用する気だな? くっくっく。相変わらず、クソミソ狡猾な野郎だ。いいだろう。その徹底した自己中心ぶりに敬意を表し、お前の掌の上で踊ってやるよ」


 と、決め顔で、ぐちゃぐちゃと、間違ったことをほざき散らかした後で、

 センは、堂々と、


「俺が積んだ時間は、200兆年だ」


 そう言い切った。


 蝉原の脳は、しばらくの間、

 『センエースの言葉を理解するコト』ができなかった。



「に……ひゃく……」



 むかしむかし、

 ずっと昔、

 蝉原は、

『命の王センエースは200おく年を積んだ』

 と言う話を聞きました。

 その時の衝撃は、今でも鮮明に覚えています。

 とてもすごい衝撃でした。

 けど、今、蝉原は、

 あの時とは比べ物にならない衝撃を受けています。

 あの時は、わずかも理解ができませんでした。

 けど、今は、ほんの少しだけですが、凄さが理解できるのです。

 センエースが何を成したのか、

 その重さが、世界で一番理解できる自信がありました。

 ほんの少し理解できるだけでも、世界一を誇れるほど異常な記録。

 センエースは、蝉原が想像していたよりも尊い存在だったようです。


 だから、

 ……だから……



「……ソル……」



 蝉原はうつむいて、

 まるで、ケンカ中の小学生が親を呼ぶみたいな声音で、


「聞こえているだろう……来てくれ……ソル……」


 要請にしたがい、ソルは、蝉原の背後に現れる。

 そして、何も言わずに、じっと、蝉原の背中を眺めていた。


 ……蝉原は、少し時間をかけて慎重に言葉を選ぶ。

 いいたいことは腐るほどあった。

 言ってやりたいこと、詰問したいこと、なじりたいこと、吐き捨てたい文句、

 山ほど浮かんでくる、非生産的なソレらを、根性だけで切り捨てる蝉原。


 ……センエースと比べれば、蝉原が積んだものは小さいが、

 しかし、事実として、蝉原は、3兆年を積んでいる。

 その事実だけはレプリカじゃない。

 本物と呼ぶのは、やはり、さすがにおこがましいかもしれないけれど、

 でも、決して、ただのゴミではないのだ。

 だから、蝉原は、

 ――折れずに奥歯をかみしめることが出来た。


 絶望と恐怖と畏敬と心酔と憧憬と崇拝と独占欲と、

 そういう、あまりにも複雑な感情を、

 全部、まるごと、ギュっと胸の前で抱きしめて、


「俺の全部を棄てて、お前の全部を使えば……ちょっとくらいは……センエースの敵になれるかな?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ