86話 煌めきの限界を追及したようなプロポーションとフィニッシュ。
86話 煌めきの限界を追及したようなプロポーションとフィニッシュ。
「やられる演技が上手いじゃねぇか! なるほど、俺を油断させようって腹づもりだな? どこまでも徹底して狡猾なヤツだな! 流石だぜ! しかし、俺はお前をナメないぞ! お前は『俺の半分』を積んだ天才。つまりは、俺を殺せる器! その認識がある限り、俺は絶対に気を抜かない!」
そう叫びながら、
さらに、がっつりとギアを上げていく。
この段階ですでに、
蝉原の視点だと、
『センエースの処理』は、
『ミレニアム懸賞問題』の次元に達している。
もはや、学校のテストがどうとかいう領域を大幅に超越していた。
どうあがいたって解けるわけがない地獄の難題。
こうなってくると、『主張のニュアンスを掴むだけ』でもてんやわんや。
だと言うのに、
「どうした? まさか、そこが限界なわけがないだろう? いくら雑魚のフリをしたって、俺はお前を絶対にナメないっつってんだろ! 下手な小細工かまさず、真っ直ぐにかかってこい! ソレともあれか? お前、まさかのスロースターターか? まったく、とんだのんびり屋さんだぜ。いいだろう! 無理矢理にでも、お前の細胞を叩き起こしてやるよ」
そう言ってから、
センは、
「真醒・究極超神化3!!!」
『究極超神化3×真醒・究極超神化7』のダブル神化の上に『真醒・究極超神化3』を重ねて、トリプル神化をかましていく。
才能がないセンエースでは、ダブルが限界。
――そんなふうに考えていた時期が、蝉原にもありました。
「ぅっ」
思わず嗚咽して、ふらっとよろめく。
センエースがトリプル神化したことがショックなのではない。
センエースのトリプル神化の調和率が、あまりにも別次元の芸術だったから、吐き気を催した。
ダブルの時は、渋さと奥深さが雅に香る、いぶし銀の輝きだったが、
トリプルの輝きは、まるで、職人の粋を結集させたブリリアントカット。
とにかく、研磨のされ方が尋常ではない。
煌めきの限界を追及したようなプロポーションとフィニッシュ。
直視したら、目がつぶれるんじゃないかと思うほどの鋭いオーラ。
あまりに美しすぎたから、
武を交わすまでもなく、
その厳かな空気感だけでわかった。
(ど、どういうことだ……なんだ、この美しさ……いったい、何年を積めば、ここまで……)
蝉原はバカじゃない。
だから、もう気づいている。
センエースが今日までに積み上げてきた数字が、5兆6000億ポッチなどではないということに。
蝉原は、気づいていながら、しかし、尋ねることができずにいる。
これは、単純な恐怖。
蝉原は怯えている。
(この高みに至るためには……10兆……いや20兆は最低でも必要……)
具体的な数字は見当もつかない。
だが、『最低でも、〇〇以上の年月は必要』と言う大雑把な目算ぐらいはたてられる。
蝉原の目算では、
センエースは、
(……このバカ、もしかして 『50兆』ぐらい積んだんじゃ……)
5兆の段階でもあり得ない数字なのに、
その10倍なんてあり得るわけがない、
と、心や理性では考えるのだけれども、
『センエースという異常奇行種なら、そのあり得ない不可能を可能にしてしまうかもしれない』
という、あまりにもイカれた疑心暗鬼に駆られてしまう。