81話 ちゃんと、本物の強さに届いている蝉原勇吾さん。
81話 ちゃんと、本物の強さに届いている蝉原勇吾さん。
「お前は、本物の光だ。……惜しいな。それで精神性がまともだったら、文句なしで、お前に、『キン〇ボンビー』を押し付けるんだが」
「よかったよ。精神性がまともじゃなくて。……おかげで、君の敵でいられる。何よりも尊い特等席を独占できる。この地位だけは誰にも譲らない。たとえ、他の全部を奪われたとしても、この場所だけは、死に物狂いで守り抜く。何があっても、最後の最後までしがみつく」
とびっきりの覚悟をしめした蝉原は、
右腕いっぱいに、『尖ったオーラ』を、パンパンになるまで結集させて、
「殺神覇龍拳!!」
接近戦の必殺技をはなってきた。
コンボ始動技のアッパーカット。
下手な小細工なしで、
バッチバチの殴り合いを所望する。
ビンッビンに尖ったインファイト。
山ほど積んできたカルマを乗せて、
これでもかと、全身を躍動させる。
まっすぐいってぶっ飛ばす。
右ストレートでぶっ飛ばす。
相手の動きを読む必要なんてなかった。
なんせ、避ける気が一切ないので。
もはや、精神的・感覚的にはプロレスだった。
ここでいうプロレスとは、『プロレス感覚』という意味ではなく、
『相手の攻撃を全て受け止めた上で、真にどっちが上か、正確に決める』という意地。
避けたり、流したり、いなしたり、すかしたり、
『そういう闘い』を否定する気は微塵もない。
ただ、この場では、その選択肢が無粋である、
という、純粋無垢な感情論のお話。
「閃拳!」
センの拳が、蝉原の心臓を正確にとらえる。
グンっと深く突き刺さって、蝉原の心臓に風穴があいた。
血を吐きながら、蝉原は、
「……すごい拳だね、セン君。……まさに、王の拳だ……すべてを背負っている者の拳……」
そう言ってから、
蝉原は、一度深呼吸をはさむ。
その間に、センは、蝉原の胸部から腕を抜いた。
蝉原の傷は一瞬でふさがって、吐血も秒で止まる。
センは、無粋な追撃を行ったりしない。
今は、『頭の悪い意地』を張り合っている場面。
つまり、次は蝉原のターン。
蝉原は、右腕に、さらなる全部を込めて、
「流星・殺神覇龍拳!!」
より強く、より早く。
集中力をブースターに、無駄をそぎ落とした、殺神拳の奥義。
その絶大な威力を誇るアッパーカットが、センの顎を正確にとらえた。
バキッっと、軽快な音をたてて砕け散るグラスジョー。
一瞬、普通に気絶しそうになったが、
しかし、蝉原の前で、そんな無様は晒せない、
と、ケツの穴をグっと引き締めて、
「……蝉原。お前のゲンコツも、なかなかフルーティーじゃねぇか」
「? どういう意味かな? 『軽い』と言いたいのかな?」
「うがった捉え方しやがって。だから、賢い悪役ってのはダメなんだ。人の言葉の裏ばかり読んで勝手に自滅する。そういうとこだぞ」
「……では、どういう意味なのかな?」
「知らんよ。テキトーに言っただけなんだから。俺の言葉に意味があると、いつから錯覚していた? そもそもにして、俺をどなたと心得る。畏れ多くも先のファントムトーカー、センエース公にあらせられるぞ。中身のない言葉で世界をケムにまく。それが俺の生き方じゃい。つまりは、俺の言葉に意味なんかあっちゃダメなんだよ」
「……意味があってダメだということはないと思うけれどね」




