77話 ゼノリカパニック。
77話 ゼノリカパニック。
――『ドラグナイトセンエース』は、決してザコではなかった。
普通にめっちゃくちゃ強い化け物で、
もし、センエースが、修行期間を、当初のトウシの予定である『1兆6000億年』で切り上げていた場合、センエース以外で抵抗できる者は一人も存在しない……という、なかなかヤバすぎる、相当な強敵だった。
だが、なんせ、センさんは、今回、200兆年を積んでいるわけで……
その恩恵をガッツリと受けているトウシさんにとって、ドラグナイトセンエースぐらいは、普通に、しょっぱい中ボスでしかないわけで……
「が……はっ……」
さして、ピックアップできる見所もなく、
トウシは、だいぶ力を温存した状態で、
ドラグナイトセンエースをサクっと完封してしまった。
あっさりとドラグナイトセンエースをシバき上げたトウシさんが、
そのまま、センのもとに帰ろうとした、
……その時、ようやく、トウシは、
『センエースの身にふりかかっている災厄』に気づく。
(……うぇ、やばっ……)
ドラグナイトセンエースの討伐に向かう前、トウシは、もちろん、『センエースを守るための結界系の防御策』を、何重にも重ね掛けしていた。
だが、現状、その全部が、バッサリと砕かれており、
ディメンションアイを使っても『センエースを感知できない』という、
スーパー大問題に直面。
トウシは、すぐさま、
ゼノリカの面々全員に、
『センエースがやばい。たぶん、蝉原がなんかした。全員で探そう』
というオーダーを発令。
パニックになったゼノリカは、
狂気の忠誠心で、『パニクっていても無意味。とにかく探せ』と、
砕けそうな心を鋼のメンタルだけでたてなおして、センエースの捜索に腐心する。
内心の深層では、
『戦場で母親とはぐれた園児』ぐらいの、
ヤバすぎる恐怖と精神的不安定さに陥っていたが、
しかし、涙を必死にこらえて、
センエースを探し続ける。
トウシと情報班が、全力を尽くした結果、
『特殊な固有結界の中で、センと蝉原が殺し合っている』
ということだけは判明した。
そこからは、必死で固有結界の解析を試みて、
どうにか、結界を破壊、もしくは、前衛職を結界内にぶちこめないか、
と、色々、必死に、模索・努力・発狂を続けてみたが、
しかし、蝉原の固有結界は、すさまじく強固であり、
トウシたちが全力を賭しても破ることは叶わなかった。
アホほど頑張った結果、
一応、中を覗き見ることだけは成功。
『センエースと蝉原勇吾の死闘を、黙って観戦することしか出来ない』という、己の無力さを恥じながら、センエースの勝利を全力で祈るゼノリカの面々。
★
――『外から見られている』ということに気づいた蝉原は、
「セン君。どうやら、ゼノリカの面々が、俺達の闘いをヤジウマしているようだよ」
両者、ゴッリゴリに殴り合いつつも、
「……っぽいな」
軽やかに会話をつなげていく。
今は『様子見の打ちあい』でしかない。
だから、余裕のある会話も可能。
「これだけのギャラリーを背負っての死闘だ……下手なところを見せるわけにはいかないね」
「ああ、そうだな」
「けれど、残念。君は死ぬ。ゼノリカの面々は、君の死を知って、絶望することになる。そして、その深い絶望は、俺の器になるんだ。君の命と、ゼノリカの絶望を器にした俺は……真の意味で完成する。つまりは、世界が完成するということ。そんな、理想のエンディングが俺の望みだ、セン君」