76話 『磨き上げた力を、がっつりとぶつけられる巨悪』にいて欲しいっていう欲望。
76話 『磨き上げた力を、がっつりとぶつけられる巨悪』にいて欲しいっていう欲望。
「君と戦うにあたって、色々と考えたんだ。君を削る作戦も色々と考えた……けど、『かったるい搦め手』は、全部、やめたよ。俺が最終的にとった案は『邪魔な雑音を全部排除』して、静かに、豊かに、自由に、二人きりで、真剣に、全力で、語りあうこと」
「……蝉原。やる前に、一つだけ聞かせてくれ。お前、マジで、俺の半分……つまりは、『兆』の単位がつく時間を積んだのか?」
そこで、蝉原は、まっすぐに笑みを浮かべた。
いつもの『ニタニタと小ばかにしたような笑顔』ではなく、
屈託のない、まっすぐな笑顔で、
「……ああ」
その短い返事の中に、
『中身がぎっしりと詰まった自信』と、
『とことんまで深掘りした自尊心』を感じたセン。
だから、センは、
「……感謝するぜ、蝉原。おかげで、もう一つ、高く飛べそうだ」
そう言いながら、
ゆったりと、ストレッチを開始する。
細胞の全部に号令をかける。
『今から本気で動くから、ケツの穴グっと引き締めて目覚めろ』とオーダーを出していく。
「バカみたいに大量の時間を積んで、『全ての巨悪をぶっちぎれる完璧な強さ』を求めたのは……守りたいものを全部、絶対に守りたかったから。だから、本当なら、『同等の相手』なんかいてくれない方がいいんだ」
『守ること』だけが目的なら、敵は、ザコばかりの方がいい。
なんだったら、敵なんかいない方がいい。
ずっと、平和で、豊かで、穏やかで、静謐で……それこそが、最良な、輝く未来。
「……『鬱陶しいだけのザコいカスども』を、安い害虫駆除の要領で、かたっぱしからプチプチと片手間に潰していく……そういう楽勝が続く方が、絶対にいい。その状態なら、問題なく、世界を守れる。それは事実で、それも本音。俺だけが最強で、敵は全部ゴミで、かるく踏みつぶしたら全部終わり。それが最良。それが事実。……けどなぁ……やっぱ、どこかで、あるんだよ。『磨き上げた力を、がっつりとぶつけられる巨悪』にいて欲しいっていう欲望も」
これは、誰にだって理解できるアンビバレントだろう。
負けたくはないけれどヌルゲーはゴミゲーだって我儘。
本気でやりこんだゲームで倒すべき相手がいない苦悩。
「――『せっかく磨いたものを、徹底的にぶつけられる、頑丈なオモチャ』が欲しいっていう、幼稚で無責任な願望。……庇護対象からは、『そんなもん望むんじゃねぇよ、怖いだろうが』と石を投げられてしまうから、大っぴらには言えないが……まあ、心の奥では、そういう、手前勝手な本音も、普通にあるわけで……だから……」
などと、ダラダラ、本心を吐露ってから、
自分の体が、問題なく稼働できることを確認すると、
静かに、武を構えて、
「いくぞ、蝉原。……殺してやる」
……ちなみに、状況を整理すると、
センは、『蝉原が100兆年を積んだ』と勘違いしていて、
蝉原は、『センが5兆6000億年を積んだ』と勘違いしている。
ゴリゴリのアンジャ○シュ状態で、
世界の命運をかけた、最終決戦が、
――今、華麗に、幕を開ける!!!




