74話 センエースの半分。
74話 センエースの半分。
「俺案件かと思ったら、アホのトウシだけでも余裕じゃねぇか。……『ゼノリカだけでも余裕で、顔すら分からないまま殲滅したMP型センエース』に……『トウシ単騎で楽勝の、フルボッコにされているドラゲナイ』……随分と、しょっぱい敵ばっかり出てくるな」
センエースは、心底不満そうに、
「そうじゃないだろう? シナリオとして間違っている。ドラゴン◯ールを見習えよ。ク◯リンやベジ◯タだけで、特戦隊や宇宙の帝王を処理しちゃダメだろ。前座はちゃんと、華麗にやられてくれなきゃダメじゃないか。ボコボコにやられて、どうしようもないってところに、俺が颯爽と現れる ソレが、カタルシスの基本だろ。主役の俺が呑気に寝てて、サブメンバーだけがフル出動した上で楽勝って、どんなシナリオだよ。マジで俺いらねぇじゃん。……誰だよ、このクソ脚本考えたバカ。一回、専門学校かどっかで、基礎からやりなおしてこい」
などと、だらだら、ぶちぶち、文句を垂れていると、そこで、
「――いやぁ、想像以上に、田中トウシとゼノリカが強くなっていて、びっくりしたよ。セン君以外が相手なら、ドラグナイトだけで十分に刈り取れると思ったんだけど、いや、本当に驚いたよ」
突如、湧いて出た『宇宙一のヤクザ』。
最高格にヤバすぎるクソ野郎に対して、
センは、ピクリとも動けないまま、
しかし、決して焦りを表に出さず、
「……よぉ、蝉原。久しぶりだな。会いたかったぜ」
と、丁寧な挨拶から入っていく。
そんなセンの挨拶に対し、宇宙一のヤクザ『蝉原勇吾』さんは、
ニタニタと黒く微笑みながら、
「俺もだよ、セン君。ずっと、君に会いたかった。君を殺すためだけに 無限と言っても過言じゃない努力を積んできた。もちろん、君には敵わない。『努力量』だけで言えば、『俺が積んできたもの』は、君よりも確実に下。それは認めるが……しかし、一応、君の半分以上は積んできた」
「へぇ、そりゃすげぇ。褒めてやるよ。体が動くなら、拍手しているところだ」
「じゃあ、してくれよ」
そう言いながら、蝉原は、指をパチンと鳴らした。
すると、センを縛っている呪縛の魔法が、あっさりと解除される。
(ランク25000の呪縛を秒で解除したか……やるじゃねぇか。俺の半分積んできたってのは、ハッタリじゃねぇかもな)
心の中でそうつぶやきながら、
センは立ち上がり、首をゴキゴキと鳴らしつつ、
(蝉原は天才だ。仮にガチで、俺の半分である『100兆年』を積んだとしたら、無能ポンコツ凡人の俺なんか余裕で超えられるだろう。……けど、行けるか? 100兆なんていけるか? 200兆を積んだ俺が言うのもなんだが、100兆なんか、蝉原には絶対に無理だろ)
などと心の中でつぶやいていると、
蝉原は、
「セン君。どうやら、かなり疲れているみたいだね。俺はヌルとは違うから、満身創痍の君を襲ったりしないよ。そんな半端な勝利は求めない。完全に勝つ。ソレが俺の目標だ」
そう言いながら、
蝉原は、また指をパチンと鳴らした。
すると、センの肉体がスゥッと軽くなる。
「おっと……や、やるじゃねぇか、蝉原。トウシですら、『秒での完全回復』はできなかったってのに、無詠唱かつ秒で俺を全快させるとは……惚れ惚れするぜ」




