72話 これまでの非礼を詫びよう。すまなかった、田中さん。
72話 これまでの非礼を詫びよう。すまなかった、田中さん。
「諦めろ、センエース。ワシは王にはならん」
「じゃ、じゃあ、もうお前が王にならなくてもいいから、とにかく、あいつらの中から俺の記憶だけ消してくれ。俺、イヤなんだよ、勘違い崇拝されるの。裸の王様になりたくないって気持ち、わかるだろ? だから――」
「あ、むりむり」
「なんでだぁ!」
「前にも言うたやろ。ワシはお前が嫌いやねん。逆恨みで、ダル絡みされまくっとるから」
「わ、わかった、これまでの非礼を詫びよう、すまなかった、田中さん。これで水に流してくれ。そして、さっきの言葉を全面的に撤回してくれ。そして、あいつらの中から俺の記憶を消してくれ。そして、ゼノリカの王になってくれ。そして、人類を完璧な未来へと導いてくれ。そして、すべての運命を超越してくれ。そして俺を完全なる自由にしてくれ。そして――」
「まだあるんかい。注文の多い王様やなぁ。どれもこれも、難易度が無駄に高いしよぉ」
などと、生産性皆無なダベりをしている間に、どうやら、MP型センエースの駆除は終わったようで、
田中のもとに、殲滅完了の報告が届いた。
「……はい、はい、はーい、了解。……でも、まだ厳戒態勢はとかんといてくれ。何かしらの『おかわり』に備えて、警戒体制を継続するように……はい、よろしくでーす」
「殲滅したのか?」
「ああ。ほとんど損害なく、全てのMP型センエースを駆除することに成功した」
「ほとんどないってことは、多少の損害はあったってことか?」
「各地の建造物がだいぶ破壊されたんと、一般人の重軽傷者が190名。死者はゼロ」
「重軽傷者200近くを、損害なし扱いか。さすがっすね、田中さん。俺みたいな小心者とは度胸が違うや」
「世界各地のあちこちで、存在値5000兆級が1000体も暴れ散らかしたってのは、超規模大地震と大津波と大豪雨が同時多発テロをかましてきたよりも、100兆倍以上えぐい地獄。それを死人ゼロで済ませたんは偉業やろ。怪我した奴らも、すでに天下の救護班が使った『神の慈悲』で完治しとるっぽいし」
「天下の救護班が、神の慈悲を使えるって事実がハンパじゃねぇな。インフレもここまできたかって感じだ。ちょっと前まで、神の慈悲が使えるのは、『正式』なゼノリカのメンバーでは俺1人だったんだけどなぁ。まあ、ちょっと前っつっても、200兆年以上前なんだけどね、てへっ」
などと、センが、ちょけていると、
そこで、田中が、『何かしらの報告』を受けたっぽく、怪訝な顔で、
「――え? あ、やっぱり? 『おそらく、そうくるやろうなぁ』と、初手から思うとったけど、そのまんまやったな」
「報告きた? なんて?」
「MP型センエースの死体×1000を生贄に捧げ、『ドラグナイトセンエース』を召喚! ……してきたらしいで」
「――『らしいで』って言われても こっちは、まだMP型センエースがどんなもんかすらわかってねぇのによぉ。主役を置き去りにして、話をどんどん先に進められても困るなぁ」




