65話 おつかれ。
65話 おつかれ。
――最後の一撃を担当したのは、もちろん、田中。その役目だけは誰にも譲らない。最初から、そう決めていた。
最後の20年を、きっちりやりきったセンの心臓に、田中は、
「――閃拳――」
と、あえて、センエースの必殺技を叩き込む。
「ぐふっ」
と、センは、吐血しながら、
「……へったくそな……閃拳……だな……」
と、文句を口にする。
「気品……優雅さ……勤勉さ……そして何よりも……速さが……たりない……」
最後の最後まで、センエースで在り続けようとする彼を、
田中は、グっと、抱きしめて、
「……おつかれ……ヒーロー」
と、こみあげてくる全部を乗せて、
精一杯のねぎらいの言葉を奉げる。
田中の腕の中で、センは、
「……」
一度、グっと、奥歯をかみしめてから、
「……きもい……さわんな…………殺すぞ」
と、ただの本音を口にした。
こうして、
センエースの永い旅は、
正式に終わりを迎えた。
田中の腕の中で、真っ白な灰になるセンエース。
言うまでもないが、心が折れたがゆえの灰化ではない。
ただ、ゴールに辿り着いたということの証明。
それだけの話。
――馬鹿みたいに多くの時間を積んだ凶神センエースは、
――その全ての積み重ねを背負い、
――『本物の現世』に還る。
★
「――ん……」
意識を取り戻した時、センは、自室で、ゲ〇ムボーイ片手に、ムーア最終の作成に取り組んでいた。
――というわけではなかった。
見慣れない光景――と思ったのも束の間。
すぐに、センは、この光景を思い出す。
「……見知った天上……」
センの視界には、豪華な天井が広がっていた。
荘厳な『無数のシャンデリア』が並ぶ。
周囲を見渡すと、クソ広い豪華な部屋。
バカみたいにでかい、高級感で一杯のベッド。
(……この空気感……ここは、第二アルファか……戻って……きたのか……)
目が覚めた瞬間は、頭の中が寝ぼけ力全開で、何も分からなかったが、
しかし、
(……わかる……ここは……『カミノが創ったレプリカ』じゃない…………本物の……第二アルファ……)
見た目はほぼ一緒だが、
しかし、明確に違う。
ここには『本物』しかない。
『イデアクロニクル』も、
『アストラルスピリット』も、
『フラグメントアグリゲート』も、
全部、全部、全部。
恐ろしく長い時間がかかったが、
センは、ついに、元の世界に帰ってきた。
「すぅ……はぁ」
深く息を吸う。
命が満たされていくがわかる。
ベッドから起き上がり、窓を開けて世界を見渡した。
そこには、
『とてつもなく長い時間をかけて取り戻した世界』が広がっている。
「……ちょっとだけ、雲が白すぎるが、でも、まあ、綺麗な空と言ってなんの問題もないかな……」
少しだけ雲が厚くて、
雑多に散らばっているが、
しかし、心底から美しいと思えた。
上を見れば、嫌いじゃない空、
下を見れば、人々が街を行き交い、
『今日』を懸命に生きている。
本物の世界は、
やはり、面構えが違った。
何がどうとはいえないけれど、
ここには、確かに、
ずっと『守りたい』と願い続けた『全部』があった。
「俺はまだ、トゥルーにたどり着いたわけじゃない……ヌルの話が事実なら、蝉原が、裏でごちゃごちゃ動いているはず。……汚物は消毒しなきゃ(使命感)……」




