64話 センエース、お前の未来、返すぞ。
64話 センエース、お前の未来、返すぞ。
闘いの中で、ふいに、田中が、
「ちょ、悪いけど、全員、止まってくれんか?!」
と、命令(お願い)を出した。配下チームの絶対的リーダーのお願いに配下たちは迷わず従う。田中に命令されることを、シューリは不服そうにしていたが、しかし、田中の声音が真剣だったため、一応、『様子を伺う』と言う体で手を止めた。
全員の動きが止まったところで、
それまでずっと『田中の中にいたヌル』が、飛び出してきて、
厳かに、センの前で、片膝をついた。
ゼノリカの面々は、何が起きているのかさっぱりわからず、怪訝な顔をしている。
怪訝そうな顔をしているのはセンも同じで、
「何のマネだ?」
と、普通に疑問符を投げつける。
すると、ヌルは、頭を下げたまま、
「真なる命の王よ。『永劫の献身』を世界に奉げ、『俺が守りたいと思ったものを、守れるだけの力を得てくれたこと』……心から、感謝する」
「まず、誰も、献身はしてねぇ。そして、お前のためにやったわけでもねぇ。勘違いしないでよね。てか、お前、誰だっけ?」
そんなセンのチョケた発言を、
ヌルは華麗にスルーして、
自分の想いだけを全力でぶつけていく。
「センエース。今のお前なら、プライマル・ヒロインズの呪いを解くことも、蝉原を殺して、弟子たちを奪い返すことも容易いだろう。蝉原が、破壊衝動と共に、どれだけ修行したか知らんけど……お前以上の努力は絶対に無理だ。誰も、お前は超えられない。超えられるわけがない」
と、自分の中で募った想いをぶちまけてから、
「センエース。俺は、永遠に、お前の中で、お前に尽くす。俺の全てを……永久に捧ぐと誓う」
「そういうセリフは、美少女に言ってもらいたいよなぁ……お前みたいな、顔面偏差値48のオフィシャルキモダンディズムじゃなく」
「センエース。俺は、自分が、ほんのわずかとはいえ、お前の因子を持っているということを、何よりも誇りに思う」
「俺は、お前みたいな『出来の悪い自分のパチモン』がいることを普通に恥だと思っている。ヘドで溺れそう」
「ふふ」
「なにわろてんねん。てか、よく笑えんな。ここまでに俺が言ったセリフ、全部、正式に訴訟もんだぞ」
「センエース……ありがとう」
「……どの角度からも話にならん野郎だなぁ……俺は、自分が強くなるために、お前のスキルを利用しただけだ。感謝される筋合いはない」
そこで、ヌルは、とても穏やかな顔で、ボソっと、
「……そろそろ、この、『ほぼ無限ループ』も、終わりを迎える。そうすれば、この世界ともおさらばだ」
ここは、センエースにループをさせるためだけの世界。
用が終われば、当然消滅する。
「――『俺が食らった世界』は田中に渡して、『何もかも元通りになるように調整』させている。ループが終わると同時に、お前は……お前たちは、問題なく、元の世界に戻れるだろう」
「あ、そう。まあ、あのアホなら、うまいこと、全部、もとに戻してくれるだろう。なんせ、あいつはアホだから。何がどうとは言えんけど」
「センエース、お前の未来……返すぞ」
「返してもらったんじゃなく、奪還したんだが……まあ、いいや。……そのセリフは、俺の魂を震わせるテンプレだから」
そんな二人の対話を、配下たちは、ずっと、不思議そうな顔で見つめていた。
何名かの配下が、田中に、
どういう状況なのか、と尋ねたが、
田中は、
「すぐにわかる。自分たちがこれまでセンエースに何をしてきたんか。そして、センエースに何をしてもらったんか。問題なく、全部、ちゃんとわかるから」
という、抽象的で曖昧なことしか言ってくれないので、結局、何も理解できなかった。
時間が、ゆっくりと流れていく。
1秒1秒が、刻々と、静かに、正確に。
そうやってたどり着いた今日の中心で、
センは、今日も、センエースの時間を積み重ねる。
★
――最後の一撃を担当したのは、もちろん、田中。
その役目だけは誰にも譲らない。
最初から、そう決めていた。
最後の20年をきっちり、やりきったセンの心臓に、
田中は、
「――閃拳――」
と、あえて、センエースの必殺技を叩き込む。