63話 馬糞とダイアモンド。
63話 馬糞とダイアモンド。
「俺は、すごい! センエースを超えたんだ! 禁止魔カードとか、バグ技とか、反則のコピー技とかじゃなく、普通に! まっとうな、自分自身の実力で!」
正確に言えば、『破壊衝動ソルの手引き(灰化無効でのソウルゲート使用)』は、『まっとうな実力』と呼べる代物ではないが、しかし、今の蝉原に、そんな茶々を入れるのは、さすがに無粋だろう。
「準備は、完璧に整った! セン君、君の負けだ! 俺は強くなっただけじゃない! 君を殺すための完璧な計画を……この追加の1兆年の中で、散々……散っ々! 考えぬいてきた! 実力で上回っていて、作戦も完璧! 俺は君を侮ったりしない! つまり、君は、俺の足元をすくうことすら出来ない! 詰みだ! セン君! 君は終わった!」
元気に歓喜を叫んでいる蝉原を尻目に、
破壊衝動ソルは、
(この1兆年の中で、蝉原は、大きく成長したが……当然、『大きく成長するだけ』では、お話にならない。蝉原は間違いなく頑張ったし、誇っていいだけの成果は出したが……この程度で、センエースに勝てるわけがない……)
相手は200兆年を積んだ化け物。
蝉原の才能がいかに優れていても、
この差を埋めることは流石に無理。
(……センエースとの闘いの中で、蝉原に、『芸術的で革命的な核分裂のような覚醒』がおこらない限り……秒でワンパンだな……)
蝉原は、キッチリと、下地を積んできた。
だから、『覚醒の芽』は残っている。
その芽が、『センエースとの闘い』という『巨大なキッカケ』の中で開き、
『次のステージへと至る』という可能性は十分にある。
――ただ、
(仮に、蝉原が覚醒して、どうにか、今のセンエースを超えたとしても……その時は、その蝉原をキッカケとして、センエースが、より大きな覚醒をして終わり……そんな気がするな……)
センエースの可能性は、確実に、蝉原の可能性よりも上。
積み重ねてきたものに差がありすぎる。
灰化無効の3兆年と、
自力の200兆年。
比べれば、馬糞とダイアモンドぐらいの差がある。
馬糞も、使い道はそれなりにあるが、価値という点で勝負をすれば、当然、ダイアモンドの足元にも及ばない。
「ああ、センくん! 君とのダンスが待ち遠しい! 俺の実力を知った君が、どんな顔をするのか、楽しみで仕方ない! 自力の5兆年という、尊い旅路を積んだ君が、俺という天才に絶望する……なんて、素晴らしいんだろう! ああ、たぎる! 待ちきれない!」
などと、はしゃいでいる蝉原を尻目に、
破壊衝動ソルは、
(……これはもう、ダメかもわからんね)
と、心の中で、そうつぶやくことしか出来なかったという。
★
199兆9999億9999万9999年の時間が経過した。
センエースがここにきてから、随分と時間が経った。
本当の本当に、ゴール目前まできたセン。
配下たちとの戦いの中、
ふいに、田中が、
「ちょ、悪いけど、全員、止まってくれんか?!」
と、命令(お願い)を出した。
配下チームの絶対的リーダーのお願いに配下たちは迷わず従う。
田中に命令されることを、シューリは不服そうにしていたが、しかし、田中の声音が真剣だったため、一応、『様子を伺う』と言う体で手を止めた。




