62話 命の答えなんて……
62話 命の答えなんて……
「ふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁ」
焦点の定まっていない目で虚空と見つめ合いながら、
センエースは、今日を積んでいる。
190兆年分の痛みを丸ごと受け止めて、
200兆年という最果てを目指していく。
実質永遠を、何度も、何度も繰り返して、
命の答えみたいなものを追い求めていく。
『命に答えなんてないんだろう』なんて、賢しらな言葉でお茶を濁すのも飽きた。
悟った風な言葉遊びで、世界を斜めから見たところで痛々しいだけだって気づく。
けれど、その気づきだって、時間の経過を経て、また別の意見に代わっていくの。
『そうやって繋いでいく意思』のことを――『命』と呼ぶんだろう、
――なんて、ハンパな結論で世界をケムにまいてみたりして。
終わらない思考実験の果てに、
羞恥と混沌をコトコト煮込んで、
――そうやって出来上がったスープの味は最悪で、
普通に、吐きそうになったのだけれど、
でも、なぜか、
理由は分からないけれど、なぜか、
「……ぷはぁ」
ゴクンと飲み干してしまった。
喉が痛くて、しばらく声が出なかった。
鼻の奥がツンとして、脳がしびれて、体の節々が痛む。
けど、止まらない。
しんどいクシャミを、むしろ、推進力にして、
センエースは、また、血に濡れた今日を刻む。
「あと5兆年か……」
無我夢中で駆け抜けてきた時の中で、
ふと足を止めて、後ろを見てみた。
駆け抜けてきた茨道は、とても人が通れるとは思えない、血だらけの男坂。
グチャグチャになった足と、血だらけの足跡だけが、
今、ここにある……命の答え。
――センは、
「……さあ、いこうか……」
死んだ目で、死んでいない言葉を口にする。
ゴールは、まだまだ遠いけれど、
今日という日を積み重ねれば、
確実に少しは近づくから、
歯を食いしばって、
前を向く。
大丈夫。
まだ歩ける。
『もう少しだけ頑張ってみる』
そのセリフを……一生、言い続ける。
★
――蝉原も、ゴール目前まできていた。
『あと少しで3兆年』というところまできた蝉原は、
「は、ははは……ははははは……」
感涙に溺れる。
自分が積み重ねてきた道のりが誇らしくて仕方ない。
「セン君……ごめん……俺は……君を超えたよ。5兆年を積んだ君の方がすごいけれど……でも、勝負は……俺の勝ちだ。君は俺に勝てない」
ソルに見せてもらった映像を元に、
蝉原は、闘いの結論を先読みする。
それは、テキトーな評価ではなく、
確実で完璧な、絶対の未来予想図。
5兆6000億年しか積んでいないセンエースは、
3兆年を積んでしまった蝉原には絶対に勝てない。
その結論を前にして、
蝉原は、
「ふ、ふふふ! はははははは! ずっと、かませ犬だった俺が! ついに! ちゃんと、実力で、センエースを超える日がきた! すごいな! 俺は、すごい! センエースを超えたんだ! 禁止魔カードとか、バグ技とか、反則のコピー技とかじゃなく、普通に! まっとうな、自分自身の実力で!」
正確に言えば、『破壊衝動ソルの手引き(灰化無効でのソウルゲート使用)』は、『まっとうな実力』と呼べる代物ではないが、しかし、今の蝉原に、そんな茶々を入れるのは、さすがに無粋だろう。




