61話 ずっと、そうやって生きてきて、そして、これからも、そうやって生きていく。
61話 ずっと、そうやって生きてきて、そして、これからも、そうやって生きていく。
「流石に、そろそろ、思考を通して口を開こうや。ずっと、中身ゼロのこと言うとるで」
「中身ゼロのことを言い続けるのは、ファントムトーカーのデフォルトだ。つまり、なんの問題もない。俺にとってこの状態は、昼下がりのコーヒーブレイクと何ら変わらない平穏なもの」
「で、動けそうか? さっきから、ずっと、心と体がバラバラになって、動けなくなっとるっぽいんやけど、その症状は、どうにかなりそうか?」
「どうにかなりそうかどうかは関係ない。やるんだ。いつだって、そう。有給を取ろうとするやつは、殺してでても働かせる。それが俺のやり方だ」
「家族への甘さと、自分への厳しさの高低差が激しすぎて、耳キーンなるわ。なんで、自分以外のものは、必死こいて守るくせに、自分のことは大事にしてやらんの? 意味わからへん」
「……それが王だろ」
その言葉の直後、
センは、ゲームボ〇イを置いて、
ゆっくりと立ち上がる。
「王になりたいと思ったことは一度もないが……名乗ってしまった以上、責任はとるさ」
体の労働組合は、いまだに、『休ませろ』の大合唱に勤しんでいるが、
しかし、そんなことは知ったこったじゃない、とばかりに、
センは、当たり前のように通常業務を開始する。
やかましい労働組合は、生粋の暴力で黙らせて、
労働基準法を端から破っていく剛腕スタイルで、
――『全ての命の王』としての職務に没頭する。
「俺は神界の深層を統べる暴君にして、運命を調律する神威の桜華。舞い散る閃光センエース。……邪魔するヤツは全員、片っ端からからブチ殺すと決めた……すべての命を統べる王だ」
ずっと、そうやって生きてきて、
そして、これからも、そうやって生きていく。
★
――『190兆年』が経過した。
センは『労働組合との闘争に明け暮れる日々』を過ごしている。
『心のセンエースエンジン』と『体のセンエースエンジン』が、
毎日毎日『終わりの見えない世界大戦』を繰り広げ続けている。
心も体も、全部がボロボロのカラカラになっていく。
炸裂した脳漿が、カミサマのネジマキになって、メランコリックなメルトを、ハッピーなシンセサイザで千本桜に変えてみたりしつつ、モザイクなロールを、カゲロウな日々でナイトフィーバーにしてあげるの。
「……ふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁ」
疲労が、限界の向こう側の向こう側の向こう側に達し、
無気力に『ふぁ』しか言わなくなって久しい。
完全に壊れてしまったセンエースの目は、光を失ったモノクロで、
なかなか何者にもなれないエレクトリックな日々を過ごす中で、
バラバラになった自分のフラグメントをジグソーパズルにしながら、
それでも、実は、まっすぐに、命の意味と向き合っていた。
「ふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁ」
焦点の定まっていない目で虚空と見つめ合いながら、
センエースは、今日を積んでいる。




