60話 芸術的なパワハラ。
60話 芸術的なパワハラ。
溜まりに溜まった疲労とストレスにより、ついに、センの肉体が、本気のストライキを開始した。――今までは、センエースのパワハラに黙って従っていた『センの体』だが、しかし、面構えが違う今回は、センの恫喝に対し、完全シカトを貫くという、無敵の意志を示してきた。
いくらセンエースが、
『黙って働け。おまえの代わりなどいくらでもいる』
『有給? みんな頑張って働いているのにお前だけ休むつもりか? よくそんなことが言えるな。恥を知れ』
『反抗的じゃないか。もうおまえには仕事を任せないぞ』
『お前の、その態度のせいで、部署内、全部の空気が悪くなるんだ』
『このままだと、転職先を探すことになるぞ、いいのか』
『いいか。俺は、おまえのためを思って言ってやっているんだ』
『このハゲェエエエエ!』
と、お手本のようなパワハラ威圧をかましていっても、
しかし、ガンとして、『センの体』はセンのパワハラをシカトする。
ピクリとも動かない膠着状態を前に、
さすがのパワハラ六大天魔王も、
『わかった。ならば、少しだけ譲歩してやろう。有給はとっていい。しかし、次の日曜日に出てきてもらう。あと、有休をとる日の分の仕事を、事前に全て終わらせておくこと。これが最低条件だ』
と、実は『まったく折れていない』どころか『普通に、倍の仕事を要求してくる』という、『有給の意味がまったく理解できていない暴挙』をかましていく。
となれば、当然、センの体は、聞く耳を持たない。
『おい、いつまで、反抗的な態度を続けるつもりだ! 言っておくが、俺は【テロ(有給要求)】には屈しないぞ。俺の鋼のメンタリティをナメるなよ』
と、お互いが、強固な姿勢を崩さない。
結果、センの体は動かない。
ゲームボ〇イ片手に、自分の心と攻防すること数分。
田中が、
「おい、なんかピクリとも動いてへんけど、大丈夫か?」
と、デリカシーなく声をかけてきやがったので、
「黙ってろ。こっちは今、取り込み中だ。『テロ(有給要求)』対策で忙しいんだよ。わかったら、あっちへ行ってろ。なぁに、そろそろ、この戦いも終わるさ。しょせん、反社は、体制側に敵わない。見ろよ、やっこさん、顔色が悪くなってきてるぜ。もはや、青を通り越して、すっげぇ白くなってる。ハッキリわかんだね」
「何言うてるかわからへんけど、血の気のひいた顔になってんのはおどれやぞ。マジで、だいぶヤバそうなんやけど」
「俺は敵には屈しない。俺を折ろうとするやつは敵だ。俺を折ろうとしないやつは、訓練された敵だ」
「この世の全部を仮想敵扱いとは……被害妄想がすごいな。完全に統合失調症になっとるやないか。さすがにちょっと休んだ方がええんとちゃうか?」
「休むやつは敵だ。休まないやつは訓練された敵だ」
「そのテンプレが大好きなんは、よぉ分かったから、流石に、そろそろ、思考を通して口を開こうや。ずっと、中身ゼロのこと言うとるで」
「中身ゼロのことを言い続けるのは、ファントムトーカーのデフォルトだ。つまり、なんの問題もない。俺にとってこの状態は、昼下がりのコーヒーブレイクと何ら変わらない平穏なもの」




