59話 蝉原はたぶんダメだから、別のプランを考えよう。
59話 蝉原はたぶんダメだから、別のプランを考えよう。
「……あと1兆年を積んで、器を磨き上げろ、蝉原。そうすれば、センエースに……」
そこまで言って口をつぐむソル。
最後まで言い切らなくとも、
蝉原はちゃんと誤解してくれた。
「あと1兆年か 確かに これを見る限り、そのぐらいは必要かな」
5兆6000億年を積み上げたセンエースの武を、
その目と心に焼き付けた蝉原は、
一度、ぐっと奥歯を噛み締めて、
「わかった」
一度頷いてから、
「どうせなら、セン君と同じ時間を積む……と言いたいところだけど、ソレは無理だろう?」
「ああ、それだけのエネルギーは存在しない。全部で3兆年。これはリミットの数字だ。駆け引きしているんじゃない。3兆年が、蝉原勇吾に許された限界の時間」
「リミットがあると思うと、少ないと思ってしまう……人間というのは、ほとほと、壊れた感性をもった生命体だね」
などと、どうでもいいことをつぶやいてから、
蝉原は、ギリっと奥歯をかみしめて、
「やってやるよ……ソル……ここまできたら、最後まで、とことん……限界の限界を超えて……キッチリと、センエースを超えてやる……」
覚悟を魅せつける蝉原を尻目に、
ソルは、心の中で、
(蝉原は決して悪くない。こいつは、それなりに頑張っている。頑張ってはいるが、それだけでは届かない世界もある。センエースは、そういう領域にいる。……蝉原がセンエースに勝てる確率は……まあ……限界まで甘く見積もったとしても……0,000000000000000005392%といったところか……)
あらゆる視点、あらゆる条件を、とことん甘く見積もった上での最高確率が、爆裂に低すぎるという現実。
それを前にしたソルは、クラっとして、
(……うん、無理だな。別のプラン考えよ……)
心の中で、そう決心した。
★
180兆年が経過した。
溜まりに溜まった疲労とストレスにより、ついに、肉体が、本気のストライキを開始した。
頭では『まだやったんぞ』と思っているのに、体が金縛りにあったように、ピクリとも動いてくれない。
これまでにも、何度か、体がストライキを起こすことはあった。
しかし、この反骨精神は、精神サイコパワーで恫喝してやれば、簡単に黙らせることができた。
これまでは。
しかし、今回のストライキは、面構えが違った。
『どれだけ脅されようと、絶対に動いてやらん』と言う、強い意志を感じさせた。
稀代のスーパーパワハリストであるセンさんも、流石に、今回のストライキには、本腰を入れる必要があった。
ストライキのせいで『体』は動かないので、
心の袖をまくって、
『俺の命令を聞け。従わなければ殺す』
と、テクニックもクソもない。
ド直球のパワハラを決め込んでいく。
さすが、パワハラ王センエースさんは格が違った。
恫喝一つとっても、潔さが違う。
――今までは、センエースのパワハラに黙って従っていた『センの体』だが、しかし、面構えが違う今回は、センの恫喝に対し、完全シカトを貫くという、無敵の意志を示してきた。




